【パソコン歴史浪漫】19 ●四兎追うものは一兎も得ず ~シャープMZ-2861 | サンロフトの本とテレビの部屋

【パソコン歴史浪漫】19 ●四兎追うものは一兎も得ず ~シャープMZ-2861

【パソコン歴史浪漫】19 ●四兎追うものは一兎も得ず ~シャープMZ-2861


1987年4月、シャープからMZ-2861が発売された。X1/X68000とは違うMZ系待望の新型である。
MZ-2861はMZ-2500シリーズの後継モデルで、MZ-2800シリーズと呼んでもいい。しかし、ラインアップは1タイプのみで後継モデルも出なかったため、MZ-2861としか呼ばれない。


MZ-2861 32万8000円


パソコン史上、これほどてんこ盛りのマシンは他に無い。
式にすれば、MZ-2500+X68000+FM R-50+PC-286≒MZ-2861。
最強8ビットパソコンMZ-2500との互換性!
テレビ画面とのスーパーインポーズと、640×400ドット65536色はX68000並!
富士通がワープロ「
OASYS」との融合なら、シャープはワープロ「書院」との融合!
エプソンがハードコンパチの98互換機なら、シャープはソフトウェア・エミュレーションで98互換機を実現!


手元にあるカタログは1枚ものが2パターン。
1987年4月のものは「MZ書院」の題字で、「専用ワープロとパソコンをひとつにしたニューコンセプト16ビット。」とある。
1987年9月のものは「16ビットパーソナルコンピュータ MZ-2861」だけで、「MZ書院」の表記は無い。「パソコンと専用ワープロをひとつにしたニューコンセプト16ビット。」とあり、パソコンとワープロの比重が逆転している。
裏面は前者が「書院ワープロ昨日をベースに、実務に即した新しいソフト環境を実現。」、後者は「書院ワープロ機能とMS-DOS V3.1を標準装備して新しい実務環境を現実。」
ホビーユースにも不足無いグラフィックとサウンド機能を持ちながら、コンセプトはあくまでビジネスパソコンであった。


筐体は、MZ-2500シリーズでボイスレコーダ(カセットデッキ)の無いMZ-2520とほぼ同じである。ボイスレコーダは残しても良かったと思う。DAT規格は1987年、MD(ミニディスク)規格は1992年発表であり、オーディオの世界ではカセットテープしかなかった。


CPU 80286/8MHz、Z-80B/6MHz。それぞれ、2800モード(MZ-2861)と2500モード(MZ-2500シリーズ。MZ-80/2000モードは無い)で動作。
8ビット機と互換性のある16ビット機は、実は珍しい。当時のメーカーには8ビット=ホビー、16ビット=ビジネスという意識が強く、ユーザー層が重ならないと考えられていたようだ。同様のパソコンにはPC-88VA(1987年)やPC-98DO(1989年)があるが、いずれも成功とは言いがたい。
MZ-2861は、80286用に設計された唯一のパソコンだったという。80286は当時の標準的CPUだが、PC-9801VXは互換性のため80286を高速な8086として使っていた。FM R-50/R-60はFM16βと断絶し80286から始まっているが、やはり高速な8086マシンに過ぎなかったのだろうか?


ROM IPL 64Kバイト、漢字ROM 256Kバイト(JIS第1~2水準)、辞書ROM 256Kバイト(9万語)。RAM 768Kバイト(最大6MバイトのRAMディスク)、GRAM 512Kバイト、PCG 14Kバイト。
グラフィック 640×400ドット16色4画面、640×200ドット16色8画面、640×400ドット65536色1画面、640×200ドット65536色1画面。サウンド FM音源+SSG音源、各8オクターブ3和音。
3.5インチ2DD/2HD FDD内蔵。HDD外付け可。RS-232C 1チャンネル、マウス 1チャンネル(マウス別売り)、ジョイスティック 2チャンネル。


ワープロソフト「書院28」標準装備。MS-DOS V3.1標準装備(BASIC-M28あり)。PC-9801エミュレーションソフト搭載。FM R-50/R-60ではDOSとワープロが別売りで計9万6000円なので、割安感がある。スペックとしても、FM R-50FD 38万円とFM R-60FD 45万5000円の中間にあたる。
X68000 36万9000円との比較ではスペックがやや劣るものの、コストパフォーマンスではMZ-2861が上回ると思う。付属のワープロソフトもX68000より上だろう(辞書ROMもあるし)。X68000が既存のパソコンと一切互換性が無い(DOS上の汎用ソフトすら無い!)のに対し、MZ-2500やPC-9801との互換性がある。


スペック、魅力、絶対価格の安さ。どの基準で見てもこれほど優れたマシンは無い。ところが、MZ-2861は売れなかった。1代限りで終わったという点では、MZ-2500やFM16β以下である。超高級機やラップトップ等の機能限定機以外で、1代限りのパソコンがあっただろうか?
1982~83年頃、色々なメーカーが参入した頃にはあったが、80年代後半の安定した時代にはもう無いだろう。
売れなかった理由はいくつかあるが、一言でいえばアピールポイントがどれも中途半端だったのだ。


ビジネスパソコンにも関わらず、MZ-5500/6500シリーズとの互換性が無い。企業向けに売るにも富士通のような営業力が無いし、店頭売りのビジネスパソコンはPC-9801シリーズの独壇場だった。
MZ-2861でPC-9801シリーズのソフトが動くといっても、ハード的に互換性のあるエプソンPC-286とは違う。ソフトウェア・エミュレーション方式は当時なじみが無く、どの程度の互換性か分からなかった。一太郎、花子等の有名ソフトが動くだけでは魅力に欠けたし、動作速度も遅くかった。その用途なら、旧型のPC-9801を買った方が安くて確実だったろう。当時は体験版ソフトも無く、目的のソフトが動くか否かを確かめる術も無い。
だいいち、エプソンPC-286でさえ当初は苦戦した。むしろ、1年ぐらい経ってPC-286が軌道に乗ってからMZ-2861が出た方が、エミュレータの注目度も高かったろう。


同時期発売のX68000やFM Rシリーズに比べ、MZ-2500シリーズと互換性があるだけMZ-2861は有利だった。しかし、そのアドバンテージはあまりにも小さい。無茶を承知で言うが、MZ-2500よりX1/X1turbo互換モードが欲しかった。X1ならソフトも豊富だし、Z-80A/4MHzで足踏み状態のX1/X1turboユーザーの乗り換え動機にもなる(Z-80BでX1用ソフトが1.5倍速で動くとか!)。


最大の不幸は、X68000との競合だろう。X68000さえ無ければ、シャープファンのみならずアンチPC-9801たちを多く取り込んだに違いない。FM Rシリーズで富士通の16ビットホビー機の可能性も消えたことだし……。
X68000は、スペックでも設計思想でもMZ-2861を上回っていた。実のところX68000はそれほど先進的でもなかったが、イメージに助けられた。マニア好みの68000搭載、グラディウスという出来の良いゲーム、マウス前提のビジュアルシェル、独創的な筐体デザイン等々、単なるスペック以上のアピール力があったのだ。
PC-9801より完全に1世代先のマシン。そう、1982年秋のPC-100、いや、それを遥かに超えるインパクトだった。


それに比べると、(洗練された設計とはいえ)80286というありきたりのCPUに、ありきたりのMS-DOS。筐体もMZ-2500の廉価モデルからの流用は、なんとも古臭い。
勢い、PC-9801UV2/UV21 各31万8000円を選んだ人も多いだろう。CPUは格下のV30でカラー表示も貧弱だが、一太郎や花子目的ならこっちの方が安くて速い。


売れてさえいれば、MZ-2861は魅力的なマシンに成長しただろう。CPUも80386、80486へ進化し、後にFM TOWNSの参入を阻んだかもしれない。富士通は自滅のイメージが強いが、シャープMZ系はタイミングの悪さが目立つ。
不思議なことに、FM RもMZ-2861も店頭で見た記憶が無い。カタログがあるのだから現物もあったのだと思うのだが……。


関連ページ  『超高層ビルとパソコンの歴史』