【パソコン歴史浪漫】12 ●マンハッタンシェイプ ~X68000の独創的デザイン | サンロフトの本とテレビの部屋

【パソコン歴史浪漫】12 ●マンハッタンシェイプ ~X68000の独創的デザイン

【パソコン歴史浪漫】12 ●マンハッタンシェイプ ~X68000の独創的デザイン


X68000の筐体デザインは、パソコン史において最も個性的なものの1つである。セパレート型のデスクトップやタワーに限れば、これ以上変わったデザインは無いだろう。
「マンハッタンシェイプ」と呼ばれ、ツインタワーの中央に運搬用ポップアップハンドルが内蔵されている。名前の由来は、今はなきニューヨーク・マンハッタンのワールドトレードセンターだ。


正面からは、後の「FM TOWNS」と同じぐらいの大きさに見えるが、X68000は奥行きが格段に短い。ディスプレイより短い奥行きなのは、配置上ありがたかった。フルサイズのキーボードの横にマウスのスペースを確保するには、こうでなければ困る。
タワー間の空洞を差し引くと、容積は非常に小さい。拡張スロットが2つしか無いという欠点もあるが、5インチFDD2基と(2代目以降)3.5インチHDDまで内蔵する。
ポップアップハンドルは上からプッシュすると飛び出し、押し込むと収納される。重心は中心を貫いており、持ち上げた時に前後左右に傾くことはない。


今では、本体、キーボード、ディスプレイの配置は常識的に決まっている。しかし、1980年代前半は手探り状態だった。
沖電気if800ではディスプレイが(12インチのせいもあって)わざわざ高い位置に付けられていた。デスクトップパソコンの上に置くというのにディスプレイにチルトスタンドを付けたり、パソコンとディスプレイの間に拡張ユニットや外付けFDDを置くことも珍しくなかった。ユーザーの判断というより、メーカーが想定した置き方だった。
しかし、ディスプレイが正面より上にあると目に悪いと言われるようになると、ディスプレイを斜めに入れるパソコンデスクも出てきた。今日ではそういう置き方は無い。ノートPCでディスプレイを160°ぐらい開いて使う人もいないだろう。


タワー型パソコンは、縦横両用のデスクトップ型から始まったと思われる。縦置き専用は1986年の時点でも少数派だった。
DOS/Vブーム以降の無骨な海外機、ショップブランド、自作機等の大型タワー(ミドルタワー、フルタワー)筐体になると、デスクの下に置くのも普通になった。これは、キーボード接続ケーブルが長くなったせいもある。
しかし、昔はFDの抜き差しを頻繁に行うため、デスクの上じゃないと不便だったのだ。無論、ケーブルの長さの制約もある。


X68000のマンハッタンシェイプを真似したパソコンは、全く出てこなかった。大きさのわりに容積が小さいこと、内部が二分されるので設計上の制約が多いこと、重心がズレてはいけないこと、筐体の製造コスト(金型の値段)がかかること等々、欠点は多い。そして何より、個性が強すぎるため、真似したら笑いものになるからだろう。


本体以外にX68000特有のデザインだったのが、「マウス・トラックボール」だ。
円形のマウス本体から2ボタンが突き出た形。円形のフタを外すと、マウス用のボールが上からも見えるようになる。さらに、マウス裏面のスイッチを切り替えるとボールが浮き上がる。それで、トラックボールとして使えるようになるわけだ。マウス用のボタンも使えるが左右横面にも小さなボタンがあり、トラックボール時はこちらを使用する。私は、マウス形態時にも横面のボタンを使っていた。


マウスとしては大きく、トラックボールとしてはボールが小さく、中途半端で使いにくいと言われていた。ただ、私はマウスもトラックボールもX68000からだったので、違和感は無かった。
マウス前提のパソコンは、Macintosh以外では1982年のPC-100があったのみ。PC-100以降、主要パソコンでマウスがサポートされ(サードパーティ製含む)始めたものの、1986年になってもマウス必須の時代は訪れていなかった。
PC-9801等のDOSマシンでは、アプリ毎にマウスに対応していた。用途によっては、マウスを全く使わないこともあった。


Macintoshの1ボタンマウス、PC-100、PC-9801等の2ボタン・マイクロソフトマウス、MZ系の真四角マウス。今から思えば、1980年代にはそんなに使用感の優れたマウスは無かった。
今では(いや10年以上前から)、多種多様なマウスから自由に選べるが、当時は純正品が基本。サードパーティ製も、割安なだけで高機能でも高品質でもなかった。
それゆえに、マウス・トラックボールは誰も見たことのない独創的デザインと見なされたし、他のマウスを買って使うユーザーも少なかった。他のマウスといっても、後のX68000PRO用マウスや、PC-9801用マウスの改造(マウス・トラックボールの部品で作るアダプタ)ぐらいしか無いのだが……。


マンハッタンシェイプもマウス・トラックボールも、誰にも真似されないデザインだった。同じ独創的デザインでも、Macintoshがすぐに真似されたのと対照的である。
キーボードを奥に、ポインティングデバイス(トラックボール)を手前に配置したMacintosh PowerBookは、その後のノートパソコンのスタイルを決定付けた。最近では、扁平キーを隙間を空けて配置したMacBookのアイソレーション・キーボードが、スタンダードになりつつある。
X68000のデザインが何らかの形で今日まで継承されていたなら、現代のPCはもう少し面白いものになっていたに違いない。