【パソコン狂時代】54 ●PC-100に先行した先進機、シャープMZ-5500 | サンロフトの本とテレビの部屋

【パソコン狂時代】54 ●PC-100に先行した先進機、シャープMZ-5500

【パソコン狂時代】54 ●PC-100に先行した先進機、シャープMZ-5500


夏休み明け、2学期に入ってすぐのことだろう。前回同様、時期の記憶はまったく無いが、資料からそう導き出される。
ショップで未知のMZを見たという話を聞いた。約1年前のPC-9801の時と同じである。
「MZ-2500とかじゃないな。MZ-5000とか5500とか大きい数字だった」という証言に、期待が膨らんだ。これが、MZ-2XXXならMZ-2000のマイナーチェンジ、それ以下の数字ならMZ-700の後継モデル。いかに面白いマシンでも、愛機PC-8801より下位のモデルには魅力を感じない。
友人らはその日の帰りにショップへ寄ったようだが、私は次の日曜日まで待った。当然ながら、土曜日はまだ休日ではなかった。


3枚つづりのカタログ表紙には「新たな知的能力を秘めて シャープ16ビットパソコンMZ-5500シリーズ」とある。表紙をめくると「使いやすさが備わってこそ、16ビットは生きてきます。ニューコンセプト、MZ-5000シリーズ」とある。
MZ-2000/2200シリーズとは別次元の高級モデルなのは間違いない。高級8ビット機MZ-3500はビジネス用PC-3200の後継機なので取り敢えず除外。


MZ-5521(256KバイトRAM/5インチ2D FDD2基内蔵)38万8000円
MZ-5511(128KバイトRAM/5インチ2D FDD1基内蔵)28万8000円
MZ-5501(128KバイトRAM)21万8000円(1983年10月発売予定)
MZ-5500シリーズは装備によって3グレード。(FDD必須だが)MZ-5501はPC-8801より1万円安く、MZ-5511はFDD 1基付きでPC-9801より1万円安い。MZ-5521はPC-9801+9万円でFDD 2基とRAMが+128Kバイトと、戦略的な価格設定になっている。


CPU 8086/5MHz、80C49(キーボード専用)、オプションでコプロセッサ8087も用意。
ROM 16Kバイト(IPL)、JIS第1水準漢字ROM(オプション/3万円)、辞書ROMボード(256Kバイト/8万語/4万円)。
RAM 128/256Kバイト(最大512Kバイト)。VRAM 96Kバイト(拡張VRAM/3万5000円で計192Kバイト)。
640×400ドット8色(またはモノクロ8階調)、拡張VRAMでは2画面。CPUとGDC両方からアクセス可能(GDCがPC-9801のμPD7220か否か不明)。
カラーパレット機能の他、カラープライオリティ(特定の色を前面に表示)という新機能もある。
PSG(SGG)音源8オクターブ3重和音。カセットインターフェースまで標準装備だった。


設計思想は、PC-9801より先進的であった。まず、純粋なDOSマシンであること。
CP/M-86&BASIC-1標準装備、漢字CP/M-86&BASIC-2発売予定(後にCP/M-86に代わってBASIC-1、2共々標準装備)、MS-DOS&GW-BASIC発売予定(MS-DOSは発売されたが、GW-BASICは1984年5月時点でも予定のまま)。万全の対応だ。
事実上必須のFDDがPC-9801では外付けだが、MZ-5500ではコンパクトな筐体に最大2基内蔵できる。
8万語の辞書ROMボードも当時としては画期的だ。かな漢字変換辞書は通常FDに収められ、3~4万語が限度だった。HDDが高価で速度もイマイチだったため、ROMの高速性は圧倒的だった。


そして、ユーザーインターフェースは3つの点でPC-9801より新しい。
まず、オプションでマウス(1万9800円)が用意されたこと。カタログにも写真が載っており、マウス前提の最初のパソコンと言えそうだ(後のNEC PC-100ほどマウスを活かしていないが)。
次に、「ビットマップ方式の完全グラフィックディスプレイ」。これもPC-100の先取りだ。テキストをグラフィック画面に表示するので、スムーススクロールが可能である。
そして、PC-100よりも先進的なのが、マルチウィンドウ機能だ。


「スムーススクロール」といっても、今の人にはピンと来ないだろう。
文字(テキスト画面)が1ドット単位で上下スクロールするのだ。通常は、1行単位のスクロールで、画面がカクカクとなる。それが、引っかかりなくスーっと滑らかにスクロールする。
実をいえば、現代でも、WINDOWSの「メモ帳」や「秀丸エディタ」等、多くのソフトが1行単位のスクロールである。しかし、今は画面描画が高速なためカクカク(またはベロンベロンと波打つ感じが)しない。たぶん、10年いや20年遡らなければ、カクカク体験は無いと思う。
店頭でMZ-5500を操作してみて、あまりの滑らかさに驚愕した。


「ハードウェア・マルチウィンドウ」は逆に今の人には分かるが、当時の人にはピンと来ない機能だった。当時は、ウィンドウなんて考え方すらなかった。
ウィンドウは最大4画面だが、初期WINDOWSのタイリング方式ではない。オーバーラップで任意座標に任意サイズのウィンドウが高速表示できた。
LSIウィンドウディスプレイコントローラ(WDC)という専用ハードを用いた点もPC-100のCRTコントローラに似ているが、性能はともかく設計思想では数段勝る。
あの頃の我々が、本当の(現代のMacintoshやWindowsのような)使い道を想像できていたなら、PC-9801を逆転する可能性だってあった。いや、個々のウィンドウ内での上下左右スクロールという発想はまだ無理だったろう。スムーススクロールも画面全体が上下にスクロールする以外、考えられていなかったくらいだから。


純正ソフトも出ていた。TODAY(統合化ソフト)6万8000円、日本語ワードプロセッサ 4万9800円、BASIC-3 2万円、MS-DOS 2万5000円だ。


PC-9801やFM-11を上回るパフォーマンスで、シャープ起死回生なるかと期待されたMZ-5500。しかし、悲劇は目前まで近づいていた。
わずか1ヵ月後のPC-9801F2登場である。JIS第2水準漢字が無く、FDDが旧世代の5インチ2D、そしてCPUの動作クロックで劣るとあって、MZ-5500は一気に色あせてしまうのだ。PC-100は高価すぎて売れなかったが、MZ-5500は普通の値段でも天下を取れなかった。
これはシャープの敗北なのか、表面的スペックしか見れなかった我々ユーザーの敗北なのか?