●PC-100、ビットマップテキストの衝撃 | サンロフトの本とテレビの部屋

●PC-100、ビットマップテキストの衝撃

●PC-100、ビットマップテキストの衝撃


順序が逆になったが、↓連載の『第222回 浜田俊三、PC-100を前にして当惑する』。


PC-100が、ビットマップテキストだったのは衝撃だった。
確かに、Macintoshの68000と、PC-9801やPC-100の8086では処理能力が違いすぎる。アーキテクチャが違うので比較しにくいが、68000は内部32ビットで8086の2倍は速い。
今、Core 2 DuoとCore i5のWindows PCを比べても体感速度にほとんど差は無いが、当時の2倍速は圧倒的な違いであった。


1980年代初頭は、画面の描画の高速化が命題であった。今、ハイビジョン動画の再生がスムーズかどうかを問われるようなもの。その差で、遅い、速いと評価された。
PC-8801はCPU Z80Aだが、ウェイトのせいで実質1.8MHz。ライバルのMZ-2000やX1の半分弱、安価なホビー機MZ-700の半分強しかなかった。当然、グラフィック画面の描画も遅く、640×200ドット8色(または640×400ドットモノクロ)48Kバイトの高解像度が遅さを助長した。


最も屈辱的だったのが画面クリア。信じがたいことに3秒もかかった。画面がチラつく高速書き込みモードでも1.8秒。これは極端に遅いものの、当時の8ビットパソコンでは一瞬で画面を消すのは困難だった。
後に、雑誌記事に瞬時に画面クリアできるプログラムが載り、私は常用した。ドライバや常駐ソフトなど無い時代。BASICで書かれたマシン語プログラム(POKEね)で、これを自作プログラムにマージ(結合)して使った。BASICプログラムのマージは、N88-BASICからのサポートで、PC-6001や8001では出来なかった(なんという不便さ!)。


閑話休題。
PC-9801が長い間君臨できたのは、ROM内蔵の漢字をテキスト画面に表示し、高速処理できたからだ。漢字フォントをFDに入れたIBM 5550はいかにも遅く、後のDOS/Vのような使い勝手は望めなかった。
しかし、テキストVRAMは万能ではない。PC-9801のテキスト画面は実質80字×20行(25行)固定だった。40字×20行も可能だったと思うが使う人はいなかったろう。
しかし、PC-100にはいくつかの表示モードがあり、縦横ディスプレイとあいまって、多数の文字(行数)を表示できた。多少遅くても、他に例が無くすばらしい。
後の時代になるが、欧文のポロポーショナル表示や、文字サイズの違いを表示するなら、テキストVRAMでは対応できない。


実際に店頭で触った感覚では、PAINT等、グラフィック関係の命令が非常に高速だった。BASICのプログラムリストを表示するときも、多少引っかかる感じがあるものの、ストレスを感じるほどではなかった。
お絵かきソフト『アートマスター』、『JS WORD』、ゲーム『ロードランナー』等も触ったが、速さは感じても遅さは感じなかったと思う。なにせ、大昔の記憶で、店頭での短い時間なので正確な感覚ではないかもしれない。


思うのだが、アプリを使うのなら、テキストだけでなくグラフィックの速度も重要である。当時はテキストエディタは浸透しておらず(PC-100には付属してたけど)、純粋に文字だけ打つ機会は少なかった。BASICプログラムを書くか、ワープロソフトで文章を書くかである。
ワープロソフトには今もおなじみのメニュー等、文章以外の文字や画像が表示され、文字を打つ以外にメニュー等で機能選択する操作もある。つまり、純粋な文字表示速度だけで体感速度は決まらない。
PC-9801用ワープロソフトだって、高機能化するうちに倍角・4倍角文字の実寸表示にグラフィック画面を使ったりして、テキストVRAMのメリットは小さくなっていった。
PC-8801用ワープロ『JET-8801A』なんて、文字は全部グラフィック画面に描いていたが、非常に高速だった。


8086でビットマップテキストは無謀というのは、アプリが未熟だった時代の取り越し苦労に過ぎないと思う。
ビットマップテキスト実現のためにグラフィックが高速化されたのが幸いした。もし、テキストVRAM+低速グラフィックで設計してたら、魅力に乏しいPC-9801の亜流マシンで終わっていただろう。


ところで、PC-100は128K RAM。MS-DOS 2.0にN100-BASICを立ち上げると、フリーエリアはわずか17Kバイト。逆に言えば、N88-BASIC(86)が96Kバイトなので、ずいぶんコンパクトに収まっている。また、多くのアプリも128K RAMで動作した。
誰もが、出来る限り速く、コンパクトに、その上で新しいことをやろうと努力していた時代。


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