上級者向け入門書？

空間要素

日本建築学会編 3,150円

ル・コルビュジエの「ユニテ・ダビタシオン」を知ったのは、20年ぐらい前だったと思う。小さな外観写真が１枚に、短い解説が付けられていた。
ル・コルビュジエという名前は聞いたことがあったし、ユニテ・ダビタシオンが建築史上重要だということは、それで知った。
しかし、10年以上経って建築ブームが訪れるまで、このビルの何がどう凄いのかは全く解らなかったのだ。

建築の本には、よくユニテ・ダビタシオンが出てくるが、写真や図版を多用したものは少ない。結局、解説をいくら読んでも解らなかったものが、この建物の写真や平面図等が数ページに渡って載っている本を見て、その何たるかが解ったのである。
言葉より画像という話ではない。対象となるものをよく知ることが重要なのだ。

そう考えると、この『空間要素』という本は、まことに難解なのである。

例えば、『ポンピドーセンター』の写真があって、解説が付けられているが、その真意が解るのは、別の詳しい本か現地を訪れたかして、ポンピドーセンターの全体像を知っている人だけだろう。
この本は入門書ではないが、入門書のジレンマに似たものを感じる。解り易くしようとするほど内容が薄くなり、かえって理解しにくいものになってしまうという……。

全部とは言わないが、ここに載っている建築物をおおかた知った上でないと、この本を読んでも解ったような解らないような、微妙な感じになってしまう。
初心者だったら、あくまで辞書と割り切って、どんな建築物が重要なのかを知る手がかりにするのが良い使い方だろう。

解説などいらない。20年前、ユニテ・ダビタシオンの詳しい図版を見ていたなら、人生変わっていたかもしれないなぁ。