酒は人の上に人を造らず
有名な人らしい。著者の名前は聞いたことがあった。
「中央公論」に2015~2017年にわたって掲載されたエッセイの再録である。
僕も、いわゆる飲み屋街と言われるようなところの飲み屋に行ったことがある。
そんなところで出くわすタイプのおじさんがいる。
一人よがりの哲学があって、でも聞いてみるとなんだか魅力的で。
ああ、確かにそれは、一理ある考え方で素敵ですね、なんて話していたいが、なんせ相手は酔っぱらっている。
酒くさい息の直撃を交わしながら、なんとかコミュニケーションをとったような遠い記憶。
そんなことを思い出すくらい、この文章は酒くさい。
酒くさい文章があるのかと、自分でも書いていておかしくなるが、そうとしか形容しようがないのだ。
ここまで来ると、一つの文章の芸なのだろう。
おおげさで、わざとらしくて、でもお酒でないとしずまらない鋭い感性があり、本人はいたって真面目なところがまたおかしい。
文章には個性が出るなんて言うけれど、それでも典型的な型というものはいくつかあって、まあ、どの人のエッセイもそのあたりに収斂していくことを知っている。
このエッセイはそういう類型からはずれた、この人そのものを表すような文章であって、それがよかった。
シラフで読むにはちょっと重いなあとは思ったけれど、これも一つの読書体験だなあと思った。