鈴木透「スポーツ国家アメリカ」 | 世界文学登攀行

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世界文学の最高峰を登攀したいという気概でこんなブログのタイトルにしましたが、最近、本当の壁ものぼるようになりました。

スポーツ国家アメリカ
――民主主義と巨大なビジネスのはざまで


ヨーロッパで生まれたスポーツが、サッカーにしてもラグビーにしても、オフサイドなどを設け攻撃側に規制をかけているのに対し、アメリカで発展したアメリカンフットボールやバスケットボールは、効率的に点数が取れるようなルールを原則にして、そのかわり反則に対しては厳然とペナルティーを取る。
それを当時の産業界の目指していた方向との関わりなどから読み解いていくと、確かにアメリカってそういう国だものな、っていう気がしてくる。


この本では、共同体の絆を強化する公共財として機能してきたスポーツを通じて、アメリカ社会をながめていく。
すなわち、スポーツの歴史はアメリカの歴史とつながっている。
人種の壁、男女差別、資本主義とアメリカ、メディアとのかかわりあいなど、スポーツの視点で理解できることは多い。
単なる、枠組みとしての国家の姿ではなく、そこに住む人々の息づかいや顔が見えるような、新しい切り口のアメリカ論となっている。


また、スポーツでの能力主義を重視するあまり、才能ある個人が消費される構図。
スポーツでも世界の中で孤高の地位を保とうとしているアメリカが、例えば大リーグなどの選手の獲得に対し、世界に門戸を開きはじめた。そのことによって、大リーグは海外から安価に選手を獲得でき、そしてまた、大リーグという頂点を権威づけることで、世界の野球の秩序をアメリカ中心に構築してしまっているなどの話しを読むと、僕の好きなイチロー選手が頭に浮かんだり、確かになと思うことも多々あった。


ただ、正直、著者は、熱を入れすぎるあまり、自分の文脈に、スポーツとアメリカをむりやり関連させようとしているきらいはあって、それはちょっと強引だし、そこまで言い切ってしまうのは無理ではないのかなと思うこともあって、そこはちょっと残念だった。


アメリカという国に詳しい学者が、自分の好きなスポーツというジャンルを切り口に話してみる読み物として読めば、とても面白いものだったと思う。
ラグビーは、ワールドカップで熱狂した口なので、あまりアメリカンフットボールに興味はなかったのだが、YouTubeで検索して見てみたら、計算しつくされたフォーメーションや、パスがどんどん前に飛んで、一発逆転のタッチダウンなど、これは大変に面白いスポーツだなとそういう発見もあった。



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