服部龍二「日中国交正常化」 | 世界文学登攀行

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世界文学の最高峰を登攀したいという気概でこんなブログのタイトルにしましたが、最近、本当の壁ものぼるようになりました。

「日中国交正常化」
ーー田中角栄、大平正芳、官僚たちの挑戦


僕は中公新書を順番に読んでいくということをやっているのだが、この本はちょっと興味があって手に取った本。2011年5月初版。


日中国交正常化とは、1972年9月「田中角栄首相と大平正芳外相が訪中し、日本は中国と国交を樹立して台湾と断交」(P5)したことを指す。


本書では、日中のトップの交渉の現場となる1972年9月25日から、日中共同声明に至る30日までの6日間が、豊富な史料と綿密な関係者への取材から再現される。
しかし、そのための読者への準備として、サンフランシスコ条約から冷戦体制へと続く外交の枠組、突如訪中を発表したニクソンショックという世界情勢の流動化を大きな背景として、田中角栄、大平正芳という本書のメインプレーヤーの個人的資質、自民党内の利害関係、官僚たちの組織の中でのポジションなどから丁寧に説き起こされる。
そのため、本書のメインとなる日中の交渉現場が、くっきりと色鮮やかに理解できる。


僕はあさはかにも、この本を読むまでは、中国なんか、お隣だし、歴史的な関係も深いし、誰も何にもしなくても、時代の趨勢として国交の樹立なんて当然に果たされたんじゃないかと軽く考えていた。


しかし、日中戦争という両国間の不幸な歴史があった。大きな傷を負った中国国民の世論もある。また、それまで日本は、台湾を唯一の中国政府と認めて結んだ日華平和条約を締結しており、日中の国交正常化は、中国を唯一の中国政府と認めることに他ならないから、中国と台湾との関係は両立し得ない、いわゆる台湾問題も深刻である。


日中国交正常化のためには、いくつも乗り越えるべきハードルがあり、国を背負ったトップ間のやりとりは、一つ一つのものごとに重みがあって読みごたえがある。責任と重圧に、過ぎ去った歴史を読むに過ぎない読者である僕も、息が詰まりそうになった。
そして、この本は、今につながるアメリカも絡んだ日中の関係も整理できる。


新書らしい良書であると思う。



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