本川達雄「ウニはすごい バッタもすごい」 | 世界文学登攀行

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世界文学の最高峰を登攀したいという気概でこんなブログのタイトルにしましたが、最近、本当の壁ものぼるようになりました。

ウニはすごい バッタもすごい
――デザインの生物学


この本の著者は、かつて「ゾウの時間 ネズミの時間」というベストセラーを書いた人だそうである。
読んだことはないが本の名前は聞いたことある。


本書は、生き物の多様性を賛美した本。
目次は、サンゴ礁、昆虫、貝、ヒトデ、ナマコ、ホヤ、四肢動物と7つの章に分かれ、それぞれ独自の進化の姿を詳述している。
読み始めるとすぐに気がつくが、この著者、生き物の不思議が大好きなんだと思う。
本当に楽しそうに書いている。
様々な生き物の独自性、多様性の素晴らしさに気づくと、そういう世界を人間のための世界に作りかえてしまいつつある、人間、邪魔だなあという気持ちになってくるほどだ。じゃあ君が退場しますか?と言われれば、そんなわけにはいかないのだけれど。


本書では、生き物が行う、生存のための戦略のユニークさを紹介するのだが、この本の読みどころは、その個別のユニークさにとどまらず、システムに着目しているところだと思う。
生き物が生きていくためには、いろんな条件の中での選択肢がある。
まず、餌はどのように獲るのか。そして、自分が食べられないようにどのような防御をするのか。
そのための武器や、鎧に使える材料は何か(例えば炭酸カルシウムが容易に手に入る環境ならば、石灰質の殻を作るなど)また、その攻撃や防御のためのコスト(エネルギー)との費用対効果はどうか。
餌場の豊富な地域への進出に打って出るのか。それとも、独自の路線を貫いていくのか。
そういう話がまさに細胞レベルから書かれていると言っていい。


たとえばナマコは筋肉を極力減らして、超省エネルギーで生きていけるような体の設計をしているそうだ。そうすると、エネルギーはわずかで済むので、他の生き物が見向きもしないような少量の有機物が付着した砂を食べて生活できる。そして、筋肉がなく皮ばかりだから、他の生き物がナマコを食べるメリットが少なく、ナマコを捕食する生き物は減る。
「食う心配がなく、食われる心配もない。これは天国の生活ではないか。ナマコは省エネに徹することにより、地上に天国を実現させたのだった」(P210-211)というのを読むと、幸せってなんだろうかと思ってしまう。
もし、ナマコが尻で呼吸をする(P146-147)というコラムを読んでいなければ、来世はナマコに生まれたいと願ってしまったところだ。
尻で呼吸はちょっといやだ。


話しは戻るが、この生き物の戦略、システムに着目した記述を読んでいると、著者は、もう定年退職をした元教授で、略歴を見れば御年69歳なのだが、今はやりのプログラミングであるとか、シュミレーションゲームを見ているようで、把握がとても現代的で読みやすい。かなり専門的な話しもしていて読むのに骨が折れる部分もあるのだが、リズムよく読めた。面白かった。


この本は、大学1年生や2年生、すなわちあまり専門的な知識をもたない学生が読んで理解できるように書かれた本だと思う。だから、事前に特に知識を持たなくても楽しく読める。
ただ、僕にとっては、つい最近、同じ中公新書で進化やタンパク質について読んだ本の知見が、この本を読みながら奥深いところで複雑に絡み合った。
中公新書の平均すると200~300ページの本をうんうんうなりながら、読んで書いてをしても、おそらく文章として記憶に定着するのは1冊につきフタコトか、ミコト分くらいだと思う。けれど、そのフタコトかミコト分くらいの根っこのちゃんとある知識の広がりが大事なのかもしれないなあと、今回の読書ではそういうことに気がついて、うれしい気持ちになった。



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