ファイナルアプローチ(優世代戦闘機・姫4話) | 世界的平和熱のために

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インフルエンサーじゃなく、パイオニアになりたい。

「滑走路に着陸するまでが遠足だぞ」

パイロット候補生時代の鬼の田辺教官の口癖。
北部のトンコツ空軍基地から転属になった女性パイロットのマテルカ・クリスプ少尉も、
田辺教官に怒鳴られたらしい。



ぶわっ

「えほっ」

「小林中尉、アホなむせ方ですね」

「黒井ちゃん、それはないよ」

日元国(ニーゲン)空軍、ムラサキ航空基地所属仏魂(ぶっこん)小隊は暇を与えられた。
ホンワース武器博物館、古今東西世界中の武器が展示してある。
その中で、女性整備班の黒井曹長が旧式戦闘機の複葉機ヘンテ式を見たいと言いだしたから。
博物館の館長直々に埃まるけの使われていない倉庫へ来た。
係員が敷戸か何かの木材をどかして、パイプをかたずけている。

「マテルカ少尉」
「何館長の写真撮ってるの」
「ヘンテ式を見に来たんだよ」

後ろに居た小林中尉のペアの神林中尉が言う。

「え?」
「素敵なおじさまは保存の対象では?」

「だめだこりゃ」

マテルカ少尉は金髪ポニーテールの青い眼のそばかす娘。
そばかす顔をくしゃくしゃにしながら。

「私もヘンテ式に乗りたかったです」
「レストアされた機体はないのですか?」

素敵なおじさまと呼ばれた館長の前田さんは顔を赤らめながら。

「我が国に残ってるのはこれだけです」
「あとは敵国の重帝国(ジューテイ)の重帝国産が一機レストアされてるそうです」
「あと一機、同盟国のカリメロ会州国にあるそうですが」
「二機とも実働して飛行できるそうですね」

「わ~!私も乗りたい」
「候補生時代の田辺教官たらひどいんですよ」
「マテルカ、お前にはパイロットは無理だあきらめろ」
「私は速攻で中指立ててやりましたよ」

「おいおい」
「お転婆なマテルカ少尉は節操がないなあ」

思わずずっと黙って聞いていた寺田大尉が言う。

「寺田大尉の撃墜マークを描くのは私です!」

黒井曹長が鼻を鳴らす。

「あはははは」

みんなで爆笑。
戦闘の合間のつかの間の休息は、長くは続かない。
こんな平和がいつまでも続けばいいのにとマテルカ嬢は憂う。

博物館から配属基地に戻る仏魂小隊。
戻るなり出撃命令が下される。
ブリーフィングルームで基地司令が発令する。

「戦争は膠着状態にある」
「よってこの局面を打開する」
「重帝の心臓部をたたくために」
「戦術核を使用する」

「!」

隊員に戦慄が走る。

「司令官殿」
「それはスバル条約違反です」
「国際的に非難を浴びますよ」
「下手したら核戦争になる可能性も」

寺田大尉のペアの佐野中尉が即答した。

「そうです」
「そんなことは私が許しません」

一番後ろで聞いていたマテルカ少尉も言う。

「日元(にーげん)国本丸から通達の決定事項だ」
「まったく上層部は何考えてるかわからん」

と基地司令官。
深いしわが一層深くなってしわくちゃだ。
窓の換気扇が音を立てて回っている。
耳障りなエアコンのノイズが目立つ。

30分後、ムラサキ空軍基地滑走路上は秋の気配で肌寒い。
タキシーウエイ(誘導路)をタキシング中にペアの佐野中尉が後部座席で嗚咽を繰り返す。

「佐野中尉」
「ゲロ吐くならビニール袋にしてくれ」

前部操縦席で操縦士の寺田大尉がぼやく。
滑走路マーシャラー(誘導員)が手振りで合図を送る。
離れたところで整備班の女性隊員黒井曹長が手を振っている。
黒い作業つなぎが黒井曹長のトレードマーク。
投げキッスしだした。
映画女優のあっは~んのポーズまで。

「みてられん」

寺田大尉がまたぼやく。
黒井ちゃんの泣きボクロが女神様なのかな、とか寺田大尉は妄想する。

「あ!」
「クロたんにいけない視線を送りましたねえ」

「気にするな佐野中尉」
「死ぬかもわからん任務だぞ」

二番機の小林中尉とペアの神林中尉の機体が後に続く。

今回の作戦の為に支援戦闘機・姫2型はステルス仕様に変更された。
レーダー網に感知されにくい装備だ。

三番機はマテルカ少尉とペアの加藤少尉。
加藤少尉も女性パイロットだが、この女性隊員は人見知りで普段は誰とも話さない。
黒髪のポニーテールが眩しい。
一度小林中尉が加藤少尉にアタックを試みて見事に玉砕した過去がある。

「あ~」
「マテルカちゃん」
「今日のお化粧のノリはどうですか」

「ま~!」
「セクハラで告訴しますよ小林君!」

「小林中尉」
「脈ないからあきらめろ」

寺田大尉がしめる。

「こちらキンモクリーダー」
「発進許可を」

「管制です」
「滑走路クリア」
「発進を許可します」
「なお4番機は整備不良のため出撃できません」

一番機がスロットル全開でアフターバーナーを効かせる。
ジェットノズルからオレンジ色の排気を放出、出力を上げている。
機体下部の大型エアインテーク全開、空気を最大まで吸い込む。
場の空気がゆらゆらと揺れて蜃気楼のようになる。
甲高い金属音、ジェット燃料の臭いが充満する。

仏魂小隊3機とも装備の戦術核ミサイルは一発ずつ搭載。
対空装備に対空ミサイルが二発のみの装備。
核を積んでいる姫の仏魂正体は身重だから、機動性が悪い。
援護にトンコツ空軍基地から上がった主力戦闘機(迎撃機)、守人(もりびと)が護衛してくれる。
3機が無事に離陸した。
高高度を確保したとき、
3番機の後部座席の加藤少尉が無線で伝える。

「キンモクスリーよりキンモクリーダー」

「どうした」

「2時上空に光が」

「目を開け!」
「敵襲だ!」

左手で合図を送りながら2番機の小林中尉が絶叫する。
左へダイブ、全機一斉に燃料タンク(ティアドロップタンク)を捨てる。

「レーダーに反応しませんでした」
「敵機もステルス装備です」

事務的に報告する加藤少尉。

「護衛の守人小隊はどうした」

「無線に応答なし」
「広域レーダーにも反応ありません」
「データにある重帝の新型主力戦闘機です」
「アラート!」
「熱源反応!」
「レーダーミサイル3発来ます」

「護衛なしではどうみても」

「あきらめるなマテルカちゃん」
「田辺教官のバレルロール訓練を思い出せ」

小林君が即答。

「田辺鬼教官の得意技ですか」
「もう忘れましたよ」

「核を捨てろ!」

「何言いだすんですか寺田大尉!」
「作戦の主目標を放棄するんですか」

「核を撃てないで自滅なんて一番あってならん戦果だ」
「またチャンスはある」
「作戦規定に書いてある通り」
「やめを得ないと判断した場合は任務を放棄する」
「急げ!敵さんはまっちゃくれないぞ」

三機とも一発づつ搭載した戦術核ミサイルを投棄する。
小林中尉の二番機が即座に右上空のミサイルに向かってアフターバナー全開で向かい合う。

「俺がおとりになる!」
「あとは任せたよ~ん!」

「あ~!小林君」
「カッコつけてるう!」

マテルカ少尉が舐めた口を利く。
三機は編隊飛行から散開して別々の航空機動を描く。
小林中尉は単独で三発のレーダーミサイルをかわすつもりらしい。
核を捨てて軽くなった機体は敵機と互角に渡り合える。
敵小隊は二機。数では有利だがポジションは不利だ。
小林中尉が背面飛行に移りながら呟く。

「ここにいるみんな田辺教官の教え子だよな」
「教官の言葉を忘れたか」
「航空機動は呼吸だって」
「お前らみたいなひよっこじゃ命がいくつあっても足りん!って」
「俺なんか何回もお前今死んだって言われたよ」

一発目を高速バレルロールでかわす小林二番機。
ミサイルは三発連続で飛んでくる。
機首を軽く上にあげて右ロール。
視界がぐるぐる回って空と海がひっくり返る。

「最後のきめ台詞覚えてるか?」

「着陸するまでが遠足だ」

マテルカ少尉が背面飛行に移りながら相槌を打つ。
小林中尉の2番機が二発目をかわす、三発目が迫る。

「小林君!!」

ドーン!!

三発目が機体の尾翼をかすめて落ちた。
姫二番機が黒い煙を上げて落ちてゆく。

「小林中尉い!!」

黙っていた3番機後部席の女性隊員、加藤少尉が絶叫する。

「こんなことになるなんて」
「あの時告白を受け入れていれば」

「なに?」
「えみゅちゃん今ごろ恋の告白?」

前席のマテルカ少尉が叫ぶ。

「聴かなかったことにしておこう・・・」

1番機リーダー機の寺田大尉がぼやく。

チンチンチンチン!!

「今ごろ姫コンが!」

1番機後部座席の佐野中尉が叫ぶ。
姫二型1番機の搭載戦闘コンピュータ姫タイプCが戦闘作戦提案。

「オトリトハンターノレンケイ」

「!」

寺田大尉が息をのむ。

「私たちが囮をやる!!」

マテルカ少尉が即答する。

「無茶だマテルカ少尉」
「貴官の飛行時間では・・・」

「何事にも初めてはあります」
「このまま小林中尉にムダ死にさせるわけにはまいりません」

3番機マテルカ少尉機の後部の加藤少尉が冷静に呟く。

「少尉!撤退だって戦略だぞ!」

言いながら寺田大尉は次の挙動(マヌーバ)に入る。

「もう機体がとまらんぜよ!」

マテルカ少尉と加藤少尉の姫2番機がアフターバーに点火し垂直に上昇し始めた。
主翼とカナード翼が悲鳴を上げる。
キャノピーの水滴が流れてゆく。
敵に機の胴体をさらした姫2番機は囮になる。
重帝国軍敵機2機が囮になった2番機に30ミリバルカン武装攻撃を仕掛ける。
敵1機目の照準ガンサイトグラフィに入るなり、エンジンを止めるマテルカ。
寺田大尉の1番機がすでに敵の機の後ろにつけていた。
敵二機ともに順番にロックオンの瞬間に赤外線対空ミサイルを放つ。

二発の赤外線誘導ミサイルが狂ったようにターゲットに向かって飛んで行く。
敵の一機目がガン射撃でマテルカの姫2番機の機体の主翼片翼を打ち抜く。

「敵さん慌てだしましたよ」
「ガンサイトに入ります」
「マテルカちゃん考えたな」

佐野中尉が言うと寺田大尉が即答する。

「でも捨て身の生き残る確率の低い戦術だ」

黒煙を上げて姫2番機が墜落してゆく。
敵一機目に赤外線誘導ミサイルが命中、撃墜。
二機目がチャフフレアを放出しながら回避行動に移る間に30ミリバルカン兵装射撃。
ガンサイトグラフィ(照準)の中でターゲットシーカー(着弾予想地点)が揺れ動く。

 

ガルゥウウウウウ・・・

 

曳光弾入りの弾丸の束、オレンジ色の光の線がターゲットに向かってカーブを描き流れてゆく。

 

ズン・・・

 

 

敵二機目も撃墜!
自軍も二機撃墜。

「ふう、当方の被害もこれまた甚大だな」
「ろくでもない理由で始めた戦争も」
「ろくでもない死に方はしたくはないなあ」

「救難信号は出てるから海軍の救助艇が拾ってくれますよ」
「生きていればの話ですが」

後部座席の佐野中尉が言いながら無線を開く。

「こちらキンモクリーダー」
「主目標は放棄」
「作戦失敗」
「敵二機撃墜」
「二機撃墜された」
「これより帰投する」



5時間後。
日元国領域の海上で、撃墜された二機の搭乗員4名は無事に海軍に救助回収された。
二機ともベイルアウト(脱出)に成功していたらしい。
巡視艇の船上で毛布にくるまりながらマテルカ少尉が呟く。

「教官」
「遠足失敗でした」

「えーっきしっ!!」

小林中尉がパンツ一丁でくしゃみをする。

「私たちまた死にましたね」

毛布にくるまっているペアの加藤エミ少尉がしめる。
加藤少尉の巨乳のピンクのブラが見えている。




「滑走路に着陸するまでが遠足だぞ」





優世代戦闘機・姫4話終わり。


                                             2022.11.6(日)



画像はイメージです(ネットから拝借した画像です)

 

 

 

 

Danger Zone / 航空自衛隊

 

 

※男の子なら飛行機のパイロットに憧れるもんだと思います。


自分もクソガキのころ、戦闘機に憧れました。

 

だからおっさんになった今こんな戦記物小説書くんだと思います。

 

戦記漫画では松本零士さんのザ・コックピットとか新谷かおるさんのエリア88、

 

神林長平さんのSF小説、戦闘妖精雪風が刺激を受けました。

 

空戦ゲームのナムコのエースコンバットではなく、

 

SEGAドリームキャストのエアロダンシングにモロ影響を受けてます。

 

自分は反戦主義のミリタリーおたくです。