部隊は次の駐屯地、カメイヤ陣地に滞在する。
アニタのD中隊も簡易宿泊施設に宿営している。
二段ベッドの下部で、アニタは独り言をつぶやく。
深夜のカメイヤは星がよく見える。
天の川が綺麗。
ブラのきつさを気にしている。支給されている真っ白のスポーツブラが、もう小さくなってきた。
「はあ・・・」
「運命はなんて残酷なの」
「アン母さんがいつも言っている口癖」
「アニタにも感染っちゃったな」
「母さん」
「アニタはまだ生きていますよ」
「好きな男性でもいたら」
「少しは人殺しも楽になれたかな」
「まあ!」
「ユウリィ二等兵」
「殿方と恋に落ちたいのですか」
上段で聞き耳を立てていたサイコ・タバタ二等兵が茶々を入れる。
真っ暗な寝室で二人の乙女は恋話を始める。
「何言ってんですか」
「タバタ二等兵こそ」
「好きな人の一人や二人いるんじゃないですか?」
「私にはいないですよ」
「ユウリィ二等兵には郷里に残してきた男性がいるんですよね」
「思い出の人が」
「いませんよ」
「私は怖いんです」
「このまま人殺しが当たり前になってゆくのが」
「そうですよね」
「想いをとげるような殿方がいればいいんですけどね」
「私は二人敵兵を殺害しました」
「もう、死んでもいいくらいの過ちですよね」
「レーザーポインタに照らされる自分の夢を見るんです」
「顔面を銃弾に撃ち抜かれる夢を」
ダンダンダン!!
ズズ―ン!!
バリバリバリ!!
「何事だ!?」
隣りの部屋で寝ていた戦闘指揮官のクライ少尉が飛び出していった。
同室の田中二等兵とカール二等兵がもぞもぞと起きてきた。
部屋の明かりがついた。
「敵襲!!」
「銃と装備を持て!」
「ペパーミントの夜襲だ!」
ド―――ン!!!
ウ――!ウ――!ウ―――!!
けたたましく鳴る警報。
アニタとサイコも慌てて上着を着て装備をつけだした。
真っ白なTシャツの下は真っ白なスポーツブラが透けて見える。
自動小銃501式を抱えて走る。
夜戦だ。先の塹壕で銃撃している、アニタが属する第三大隊D中隊9分隊の田中二等兵とカール二等兵、戦闘指揮官のクライ少尉が怒鳴っている。
「ユウリィ二等兵!タバタ二等兵!」
「何をやっている!」
「申し訳ありません!」
ダダダッダダダダ!!
ド――ン!!
暗闇の中でオレンジ色の光が炸裂する。火花が飛んでくる。
前を見ると、クライ少尉以下田中二等兵とカール二等兵が居たところが窪みになっている。
「あ、あ、あ」
敵軍ペパーミント条約機構の榴弾の砲撃で皆、跡形もなく無くなったようだ、
アニタは自動小銃を落としそうになる。足がガクガク震えてくる。
恐怖がアニタの精神を支配する。
味方のマン式戦車が一両ずつ撃破されてゆく。
かつての最新鋭戦車だった千式に比べれば、マン式はかなり開発に無理があったようだ。味方の戦車が頼りにならなければ、歩兵に待つのは死のみだ。
遠くの敵陣地から軽機関銃が撃たれている。曳光弾つきで夜でも弾道が見えている。
「ぶ!」
隣で銃撃していたタバタ二等兵が後ろに吹き飛んだ。
アニタが振り返る。
「!」
頭が吹き飛んで無くなっている、即死。
「いやあー!」
後ろからグレン軍曹の野太い声が聞こえる。
「ユウリィ二等兵!」
「あの機銃を黙らせろ!」
アニタは基地の周囲にある草原に身を隠して敵陣地に近づいてゆく、たった一人で。
パン!パン!
途中出会う敵兵を一人ずつ殺してゆく。
アニタの両眼が真っ赤か充血して、涙が頬を伝っている。
s2ヘルメットが邪魔なので、途中の原っぱで脱ぎ捨てた。
!
敵戦車と出くわす。一両。
後ろに背負っていた対戦車ライフルに持ち替える。
もう気づかれている。発見されている。幸い後方回り込めたので、銃弾は飛んでこない。砲塔旋回される前に一髪を叩き込め。
ガンサイトで狙いをつける。背部のエンジン部分を狙う。
カチ!
ドン!!
ズドドドーーン!!
オレンジ色の光の爆炎を放ちながら、戦車が破壊された。
「はあっはあっ!」
あぶら汗が滴り落ちる。熱い。軍服と防弾チョッキを脱ぎ、スポーツブラの上半身になる。
自動小銃に持ち直して、機銃陣地まで急ぐ。
あった!あそこだ。
味方が釘付けにされている、はやく黙らせないと。
30メルチ手前で構える、レーザーポインタサイトを覗く。
暗視モード。光学ズーム三倍。
3人いる。
パン!
当たらない!
あ、気づかれた。二人がこっちに向かってくる!
なんか騒いでるな。
あれ?私が女だってことに気がついたみたい。
マグライトを照らしてくる。眩しい。
パンパンパン!
一人に当たった。倒れない。
近づいてくる!
逃げなきゃ!
犯される!
ポニーテールの髪を掴まれる。自動小銃を取り上げられて。みぞおちに拳を入れられる。
胃液を吐きながら意識を失いそうになる。
サバイバルナイフと拳銃を外され、スポーツブラがナイフで切り裂かれる。
アニタの意識はもうろうとしている。
アニタの誰にも見せたことのない胸が露わになった。
敵兵がニヤニヤして笑っている。涎を垂らしながら。
言語が何を言っているかわからない、きっと猥褻なことを言っているのだろう。
「は!」
敵兵の手首をねじり、サバイバルナイフを奪うと、首の頸動脈を切り裂いた!
もう一人が逃げようとするから、背中から刺した。
武装解除された自分の拳銃を握り、最後の軽機関銃を撃っている敵兵一人の頭を撃ち抜いた、頭部から赤い鮮血を流しながらうつ伏せに倒れる。
あたりが静かになった、敵が逃げて行ったようだ。
朝が来る、夜明け前の明るい夜空は、希望に抱かれているようだ。
この血塗らられた惑星で、私も餓鬼となった。
上半身裸になったアニタの綺麗な胸と腹には、敵兵の返り血で真っ赤に染まっている。
グレン軍曹の軍服の上着をはおわされて、安堵の溜息をつくアニタ。
同期の同じ分隊の学徒兵が皆死んでしまった。
女の場合は男と違って、犯されてから殺されるんだ。
純潔を守ったまま戦死したタバタ二等兵は、幸せだったのだろうか。