イノセント・エイジ(コードLP第三章4話) | 泣き虫おっさんの利他主義。

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心不全直腸がん術後転移してステージ4。
浜松の精神障害者。
イラストと詩と小説を書きます。
名もなき革命者です。
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インフルエンサーじゃなく、パイオニアになりたい。

俺はヤン、ヤン・ベアリング。

27歳の人間だ。宇宙戦闘機コンバットフライ5式のパイロット。俺の身体には機械が組み込まれている。

右手と右足、はじめは機械の身体が嫌だった。でも今では、この身体が好きだ。

相棒の女性、ケイト・ケチャップマンの機体が撃墜された。

俺は彼女に何もしてやれない。今はただ、オペの無事成功を祈るだけだ。

 

「ふんふん♪」

「ふーーんふふーん♪」

 

ここは惑星チーズ、東大陸の南の半島にいる。大昔はここも戦場だったらしい。

多くの血が大地に染みこんでいる。

白地のタイルの上、地面に座り、片膝を立てて鼻歌を歌いながら黄昏てゆく悠久ベースで外の林を見ている。

草原の上で小鳥がさえずっている。親鳥が隣で毛づくろいをしてくれている。

俺が今着ているこの作業ツナギ。あちこちほころびて、ボロボロになってる。

ベースに支給されている歴代のスタッフが着てきた服。

 

「あいつが墜ちるなんてな」

 

今も胸に残るこのときめきは、年を取ってもなくならないだろう。

オレンジ色に染まるミューロ建築のベースの半円球状のビル、ハンガーで整備班の整備士たちが大忙しで物資の搬入をしている。

出撃は当分の間ないだろう。

俺たちの負けだ。

 

悪を憎む心も、やっぱり悪なんだろうな・・・

善と悪は、永遠に仲良くなれないんだろうか。

 

 

 

 

ニュー暦0204、宇宙には愛ウィルスとよこしまウィルスがあふれていた。

愛ウィルスはケイト・ケチャップマン、邪ウィルスは謎の人物が製造した。

ケイトは焦っていた。愛ウィルスが平和にした宇宙を、たった2ヶ月で邪なウィルスで汚された事実に。

ケイトの宇宙戦闘機コンバットフライ5式は、新たな闇の勢力に撃墜され、彼女は瀕死の重傷を負った。

救難隊に救援されて、命は助かったケイト。しかし肉体は人間の時のものは残り少ない。

ラインハルトは撃沈した。

トリン達擬人メインクルーは脱出ポッドで脱出。サクラ・ストラトスだけが行方不明。

悠久ベース東2番地。マザーキュウが支援をする新造宇宙船がもうすぐ完成する。

オペルームのモニター室から擬人のシャムロッド・ブルーベリーは、ケイトの治療風景を見ている。

身体のほとんどをバイオボディに換装している。

 

「ケイト・・・」

 

その隣で擬人のPちゃんと人間のチトセ・バンジョーが話しかける。

Pちゃんはフリルのついたワンピースを着ている。チトセは頭に緑のベレー帽、ベージュ色の化学合成素材のツナギを着ている。

 

「シャム殿」

「ケイト殿は助かるのにゃい?」

 

「ケイトさんのテレビ中継観ました」

「チトセのおじいちゃんが造った愛・ウェイがもう時代遅れだって」

 

「・・・ま、まあ」

「ケイト・ケチャップマンは伝説のお嬢さんよ」

「簡単には死なないわ」

「いい?チトセさん」

「この世に絶対なんてものはないの」

「愛ウェイが時代遅れになったのも必然なのよ」

「気に病むことなんてないの」

 

「は、はい」

 

「Pちゃん」

 

「なにかなシャム殿」

 

「あのマザーヒメギミはあれからどうしてるの?」

 

「ここだにょ」

 

Pちゃんはこめかみを指さす。

 

「?」

 

「ヒメギミは集約されてワンチップになったのにゃ」

「旧世界のマザーだからそれは可能だったの」

「今は私の頭脳サーキットに組み込まれて、Pちゃんと一緒に生きてる」

「Pちゃんの中に叡智と知性が住んでいるのねん」

 

 

 

トリンはマザーキュウと相談している。

ケイト・ケチャップマンの精神面のメンタルケア、ラインハルトの代わりのシップの建造。宇宙はすでに新たなる闇勢力の脅威にさらされている。愛ウェイの次のシールドの製造は間に合うのか?

 

ある日、闇勢力による東大陸侵略が始まった。

いつの間にか軍備を増強させて、ステルス爆撃機による爆撃が始まる。

軍備を解体してしまった惑星チーズの人たちには、なすすべもなかった。

わずかに稼働している平和維持軍には、対抗するだけの軍事力はない。

破壊された都市の中で、死体に埋もれて、まだ覚醒していない宇宙の希望が涙を流している。

 

 

 

闇勢力の一般兵士同士の会話。

 

「おい」

「この作戦が終わったら俺たちは凱旋できるのかな」

 

「さあな」

「あのトリン艦隊を打ち負かしたんだぜ」

「伝説の人間、ケイトちゃんも半殺しになったそうだぞ」

 

「マジか?」

「ケイトちゃんとエッチしたかったのになあ」

 

「まあまあ」

「ケイトちゃんも擬人になったらサービスしてくれるんじゃないか?」

 

「ああ!ケイトちゃーーん!!」

 

 

 

 

ここは惑星カニメシの衛星軌道。宇宙海賊のリーン・タンバリンが闇勢力と交戦している。

新たな闇の勢力はタンバリンを舐めていた。

ろくなシールドも装備していない旧世界の生き残りだと。宇宙海賊船ドリーミンはたった一隻で闇勢力艦隊に対峙する。

 

タンバリンの側近の一人が言う。

 

「リーン様」

「ドリーミンのシールド推力は臨界に達しています」

「ご指示を」

 

「ああ」

「チャフミサイル発射」

「右側部光子ビーム砲連射」

「高圧縮素粒子魚雷を敵のドテッパラにぶち込め!」

 

「チャージ完了」

 

「てーっ!!」

 

海賊船ドリーミンの戦闘ブリッジ。後方の単座の船長席に座るリーンは、前方の操舵手が握る舵輪を見つめる。

 

「まさかトリン艦隊がヤラれるとわな」

「ケイト・ケチャップマンが瀕死の重傷を負ったそうだな」

 

「敵の闇勢力が撤退してゆきます」

「戦果報告、ラージシップ2隻撃沈」

「ミドルシップ1隻中破」

 

「新しい世界が来る」

 

「リーン様?」

 

 

 

 

うん、トリンです。

ケイトちゃんがとんでもない重傷を負って、今オペが終わろうとしている。

真っ先に保護しなければいけないはずのケイトちゃんを、戦場に引っ張り出して。

亡くなった親御さんに顔向けができないわ・・・

ケイトを一人前のレディに仕立て上げるまでは。

擬人化したあの子には、荷が重い現実かもしれない。

人間を守るのが擬人の本能だから、彼女を守れなかった後悔が自分を責める。

生命は機械と違って、産まれてきてすぐに死んでゆく。

でも機械にはそれが一番愛おしい。

人間の手で作り出された私たち擬人は、人間に恩返しがしたい。

 

 

「カスタネット艦長」

「行方不明のサクラ・ストラトスさんですが」

「惑星カニメシにて生体反応を確認しました」

「80ベクトル毎時でシグナルを発信しています」

「艦長?」

 

「ん?」

「なーにステンレスちゃん」

 

「時代は変わりました」

「平和路線で武装放棄したツケが来たようです」

「新たな闇の勢力の首領ですが」

「すでに内通者から情報が入っています」

「こちらです」

 

 

みなさんこんにちはです。

ステンレスですわ。

あたくしの夢、約束事を改変して宇宙次元に戦争を続けさせる輩を抹殺する。

それがもうじき叶いそうですわ。

詳しいことは今は言えませんが、軍備増強の許可が下りて、新艦隊と宇宙基地が設立しようとしています。

でも、あたくしには気になることが・・・

擬人の本能である人間を守る行為。

もしも戦争のない平和な世界が訪れたなら、擬人の本能はどうなる?

もちろん平和な世界は混沌としたこの争いの世界に比べたら、かけがえのないもの。

血気盛んな擬人たちは喜んで解体されましょう・・・

ただ、忘れないでいてほしい。

人間を守るために人間の手によって製造された、あたくしたち擬人の存在を。