虚弱児だった僕は、

小学3,4年生までの遠足には

必ず父が付き添ってきた。

疲れていると見てとると、

リュックを持ってくれたり、

手を引いてくれた。

3年のときだったと思うけれど、

都下の小金井町(現在は市)の学校から、

同じく都下の武蔵野市にある

井の頭自然公園まで徒歩で歩いた。

片道5キロ弱かな。

行きはよかったが、

帰りは足が棒になり、

みんなに遅れがちになった。

父が僕の前に飛び出して屈み、

「タダオ(僕の本名)、負ぶされ」

と、言った。

何てみっともないことをするんだ、

僕は恥ずかしさで頬が火照ったのを意識した。

「早く負ぶされ」

父は急かした。

みんな足を止めてこっちを見ている。

「早く早く」

父は背中をもぞもぞさせて促した。

僕は穴があったら逃げ込みたい思いになった。

担任の先生が、

「シモダくん、負ぶって貰いなさい」

と、言ってしかたなく負ぶさった。

今振り返れば、

ちっちゃなプライドを

父の余計な行為でつぶされた心地だった。

「シモダ、よかったな」

「お父さん優しいのね」

僕は父の背中に顔を押しつけて、

みんなを見ないようにしていたが、

みんなの反応は意外だった。

 

今でも僕はつまらないプライドに囚われながら、

少々頑固で不意に素直になるところがある。

素直がいちばんと分かっていながら、

少し反発してみるのだろう。

 

※モノクロの写真は直木賞を目指していた頃のものです。

 Xのラインに流れてきたものを拾わせていただきました。

 流していただいて有り難うございます。