20年程前は親の死を告げると、

「おいくつだったんですか?」

という返事が必ず返ってきた。

「94歳でした」

「天寿ですね。よかったですね」

笑みを浮かべて言われたことが多かった。

死因を問われなかったのは、

老衰に違いないと判断されたからだろう。

何だか近年から様子が変わってきた。

70代で老衰死する人が増えた。

新聞の死亡記事を見ると、

チョイチョイ70代半ば過ぎの老衰死にお目にかかる。

昨年は71歳で老衰死の人がいた。

仮に70歳前後で親が亡くなり、

「老衰です」

と、看とった医師に告げられても、

家族は複雑な思いになるだろうね。

親の親が90代半ばでピンピンしている

かもしれないのだから。

僕の母は1900年丁度の生まれで、

1994年に1ヶ月ほど寝込んで94歳で亡くなった。

寝込む前は庭の草取りを独りで担当し、

毎日買物に出かけていた。

自宅で命を終え老衰死と診断された。

日本人女性の平均寿命がまだ82歳ちょっとのときで、

それより12歳も長寿だったから、

天寿を全うできたと思う。

関係のない友人の医師が、

「精密検査をすれば、がんとかが見つかったかもしれないな」

と、と言って、

「でも、老衰死でいいんだよ」

と、続けてうなずいた。

今は死亡記事を見ても

96,7歳でも脳梗塞だとか、

100歳でも鬱血性心不全だとか、

ちゃんと死因が明記されるケースが多い。

自宅で死を迎える人の場合、

老衰と診断される率が高いらしいが、

いずれにしても70代で老衰死は、

しっくりこない。

戦争でもなければ、

日本人の寿命は延びる一方だろう。

60代で老衰死と診断される人がいる一方、

110歳で誤嚥性肺炎で亡くなる人も出てくると思う。

割り切れないというか、

何だか不思議な気がする。

皆さん、100歳超えで老衰死して、

天国で祝い酒をやりましょうや。

 

※ 写真は1900年生まれの僕の母です。

 20代の時に撮ったものですが、

 そのときの正確な年齢は不昧です。