僕らの肝試しの結果を言えば、
その後、肥だめでカッパが現れることもなく、
僕ら無事に分校に到達できた。
校庭の鉄棒には紙風船が結わえつけられていた。
翌日、
スイカ畑の主の農家が自転車の荷台に、
大きなスイカを乗せてやってきた。
父が訳を訊いた。
「土手の上にイッペエ置いた頃を見計らって、
別の仲間がリヤカーを引いてやってくることになっていたんだべ。
助かったよ」
そのスイカは4等分されて僕らの組と、
鉄棒に紙風船を結わえつけた組の合わせて4人の家に配られた。
それから何日か経って僕の組は、
分校の鉄棒に長方形のメンコを細い針金でくくりつけた。
メンコの絵柄は野球の川上哲治選手だった、
と記憶している。
この前、紙風船を結わえつけた組が、
今夜、肝試しをやる。
その夜は月明かりになった。
「闇夜じゃお化けも出ねえよ。こんな月明かりの晩に、
お化けは待ちかねて出るぞ」
肝試しをやる組の1人のお兄さんが、
脅しながら弟とその連れの2人を押し出すようにして見送った。
2人は1時間過ぎても戻らなかった。
分校までは子供の足でも15分で着く。
「何かあったな」
さっきのお兄さんが自転車に乗って様子を見にいった。
お化けではなかったが、
肥だめから人間が這い上がってきたという。
肥だめには自転車も半分沈んで落ちていた。
肝試しの組は分校へ駆け込み、
当直の先生に見たままを話した。
当直の先生は警察に通報した。
泥酔して自転車に乗り帰宅途中の人が、
よろけて肥だめに落ちた事件で、
その夜の肝試しの組は後に表彰された。
東京の住宅都市から闇夜も、
月明かりの晩もなくなった。
人工の進化した明かりの普及に追われ、
妖怪たちは滅んでしまったのか。
僕らはとうとう見ずに終わったが、
肝試しをやっていた頃は、
まだ棲息していたのだと思う。