Fという知人がリタイアして10年近くも経って、

こんなことを話してくれた。

「相棒としてやってきたのに、最後の最後まで

 彼は俺に本心を明かさなかったよ」

Fは学生時代から遊び仲間だった相棒Tと、

30歳で起業した。

詳細は控えるが、

後のIT企業にもっとも近接していた業種だった。

タイミングもよく会社は発展した。

起業時からTが社長で、

Fは副社長だった。

10年ほど経ってから、

TはFの了解の上で自分の弟を経営陣に入れた。

さらに8年ぐらい経って、

Tは新卒の長男を会社に入れた。

「気がついたときにはTの身内や、息のかかった者たちに

 俺は囲まれていたんだよ」

Fは一人っ子で結婚はしていたが、

子どもには恵まれなかった。

だいたい性格的に身内や、

自分の思い通りになる者を会社に引き入れる、

という発想はなかった。

ただ、この頃からTが何を考えているのかが掴めなくなったという。

結論から言うと、

取締役会でFは電撃的に会社を追われた。

さらに、その先を言えば、

会社はIT中堅と資本提携して結果的に乗っ取られて、

Tとその身内は追い出された。

それから2,3年後、Fは礼を尽くされて、

その会社に迎え入れられて役員になった。

辞めるときは、

60歳を過ぎたばかりで自らの意思で身を引いた。

 

FはTの本心をずっと知らなかったと思う。

そういうことを疑う人間ではなかった。

Tは起業が成功したから、

ゆくゆくは自分の会社にしてFを追いだそう、

と考え出したと思う。

やがて、その考えは実行に移されて、

Fは追放された。

Fはその会社には必要な自分が開発した技術を持っていたが、

Tはその技術はFの後輩たちが完全に習得したと思い込んでいた。

Fは自分が在るがままを通しただけで、

その在るがままのFは後に乗っ取った側の会社に迎え入れられることになった。

人の本心ホンネを推し量っても、

それを気にしての人生は偏狭なものになるだろう。

在るがままの自分を通す・・・これこそ無敵の世渡りなのだ。

 

 

※ 画像の写真は専修大学ジャーナリズム研究会撮影のものです。