この書籍広告から読みとれるものは何だろうか。
画像に限れば某紙朝刊の全5段広告の1部で、
全体では10数冊の書籍広告になっている。
ところで、
芥川賞候補作と銘打って2冊の書籍の広告が3分の1以上のスペースを使い、
トップを飾っている。
この書籍広告を出した文藝春秋社は、
芥川賞・直木賞設定の事実上の運営会社として知られている。
たまたま自社で出版した新鋭作家の書籍2冊が芥川賞にノミネートされたことで、
こういう広告の打ち方になったのだろうと見たいが、そうではない。
一瞬、芥川受賞作2冊の広告か、と錯覚した。
芥川賞の候補作は「文學界」「文藝」「群像」などの文芸誌に掲載される中・短編作品から選ばれることが多い。長編の一挙掲載もある。
今回の候補作も5作すべてが文芸誌掲載のものである。
市川沙央さんの「ハンチバック」は「文學界」5月号に、
乗代雄介さんの「それは誠」は同誌6月号に掲載されている。
選考会は7月19日に予定されており、
それ以前に書籍にして芥川賞の宣伝を兼ねてできる限り売りたい。
そういう出版社の思惑が伝わってくるが、
「ハンチバック」のほうは昨日テレビでも紹介されていたので僕も読みたくなり、
すぐにネットで注文した。
大変特異な題材であって、
どうやら作者市川さんの体験が奥深くに渡って反映されていそうである。
すでに次々に版を重ねている。
これはほっといても売れる作品だろう。
芥川賞にノミネートされている作品は他に3作ある。
それぞれの出版社は受賞したら大いに売りだそう、
ととっくに準備にかかっているに違いない。
受賞作だけでは単行本に足りなければ過去に掲載された作品を加えて、
それもなければ書き下ろしで加えて帳尻を合わせる。
作品がノミネートされた作家は、今頃、出版社の担当編集者に尻を叩かれ、
ウンウン唸ってパソコンに向き合っているかも知れない。
さて、それで改めて冒頭の書籍広告を眺めると、
出版社の苦渋が滲んでいる。
紙の本が売りづらい時代であることは、
文芸作品にとっても何ら変わらない。
売れる要素があれば逃さず早めに売りたい。
それが芥川候補作と銘打っての2冊同時の突出した書籍広告になった。
これが選考委員や、芥川賞作品のフアンに予断を与えないか、
という遠慮もどこかに感じられる。
しかし、出版社も営利会社である。
斜陽産業と見なす人たちも多いが、
手を尽くせる限りのことをして生き残らなければならない。
それはもの書きの一翼の端に連なる僕にとっても同感で、
出版社のなりふり構わぬ前向きの模索に大いに期待している。
それはさておき、
「ハンチバック」が仮に受賞すれば、
芥川賞作品としては楽々100万部突破の空前のベストセラーになるかもしれない。