ボクはボクだけの天国へきて、
大の字に寝転がった。
家から歩いて30分ぐらいかかる。
雑木林に囲まれたお盆のように丸い小さな
この草原は、
ボクだけの居場所だ。
ボクだけの天国だ。
今は春が真っ盛り。
空は雲1つなく、
どこまでも突き抜けているように澄んでいる。
バッタがキチキチと鳴きながら、
僕の体を飛び越えていく。
黄色いチョウが頭に止まった。
驚かさないようジッとしていると、
同じ種類の別のチョウが飛んでくる。
目玉を上に動かしても見えないが、
なにか仲よくしている。
お互い好みなんだろうな、
と少し羨ましく少しこっちも幸せな気分になる。
目を閉じて幸せな気配を、
吸い込むように心に取り入れる。
そよ風が草の匂いをお土産に、
ボクの頰をなでていく。
幸せな気配がまた心に入ってくる。
ゆっくりとまぶたを開けると、
真っ白い雲がほぼ真上にさしかかっていた。

おーい雲よ!

お母さんに教えてもらった有名な詩の、
出だしの言葉を叫んでいた。
でも、続きがわからない。
どこまで行くんだ、っていう言葉はあったな。
そうだ、雲の行き先はいわき平だった。

おーい雲よ!
どこまで行くんだー?

流れるままだよー、
行き先は特にきまってないぞー!

えっ、雲の上から答えが返ってきた。
ボクは目を凝らして雲を見つめた。

だれか乗っているのかあー!

雲のはしっこから顔が出て、
ボクを見下ろした。
その顔は銀色に輝いている。
2つの大きな瞳は、
この草原のように緑色だった。

キミはだれだーっ?

オレはウンセイだよーう、まだーガキだけどー!

ウンセイってなんだあー?

雲の精と書くんだー!

そうかー、雲のニンフなのかー!
心地よさそうでいいなーぁ!

お前だって緑に包まれてー、
とても心地よさそうじゃないかーっ!

雲はだんだん遠ざかっていく。
ボクはなごりおしくて、
今まででいちばん大きい声で叫んだ。

おーい、今度とりかえっこしようーぜー!
ボクがその雲に乗ってー、
キミがーここに寝転がればいいーぞー!
どうだああーぁ!

雲の子どもニンフはもう顔を引っ込めていた。
返事もなかった。
白い雲はゆうゆうと流れていって、
どんどん小さくなっていった。
いつか実現するかな、とりかえっこ。
ボクはさっきよりも、
さらに幸せな気分になって目を閉じた。