この坂を降りていけば、
噴水池があって芝生もある。
僕は坂の下のこじんまりした公園を見て、
ほっとした。
静かな自然に包まれた公園だ。
売店もあって、
サンドイッチぐらいは売っていそうだ。
僕は坂を降り始めた。
でも、少し降りて違和感を覚えた。
慌てずに1歩1歩しっかり降りているのに
同じところに止まっているようなのだ。
足はちゃんと踏み降ろしている。
でも、やはり、同じところで足踏みしている感じがした。
なんだろう、この感覚は。
おかしいな。嫌な気配だ。
このまま、ずっと足踏みしなきゃならないのか。
こりゃ大変だ。腹も空いてる。
喉も乾いている。
あぁ、少し疲れてきた。
でも、足を休めるわけにもいかない。
足を休めたら、
とんでもないことになりそうな予感がある。
いったい、僕はどうしちゃったんだろ。
あの噴水池の周りのベンチに掛けて、
サンドイッチを食べコーヒーを飲みたいだけなのに。
いくら足を下ろしても下ろしても、
ちっとも下の公園に着かないじゃないか。
どうしちゃったんだ、
僕はどうなったんだ。
あーもう、休みたいのに、
休んだら良くないことが起こりそうだ。
あの噴水池を挟んで、
向こうにも坂があるな。
あっちの坂から降りればよかったな。
おーい、誰かいないか、
僕はどうしちゃったんだよー。
叫んだってなにしたって、
猫の子いっぴき見当たらないじゃないか。
あー、あー、僕は孤独だ。
孤独で拷問を受けているようだ。
僕はどうしたんだ。
足を休めたい。
でも、もう降りるしかないんだ。
なぜ降りられないんだ。
足が萎えたらどうなるんだ。
誰か助けてくれ!
僕は両手を上げて、
その両手を振り回しながら、
助けて、助けて、と叫び続けた。
恐怖に襲われて目をつむって叫び続けた。

制服を着た2人連れが噴水池の側に現れて、
目をつむって足踏みをしている少年を見上げた。
「あいつ、どうしたんだろう。上りエスカレーターの電源を勝手に入れて動かし足踏みしているよ」
「しょうがねぇなぁ。今日は定休日なのに、あいつ、どこから入ったんだろう」
「助けてくれ、と叫んでいるようだ。変な奴だな」
「だいぶイカレてるな。いずれにしたって取り押さえなきゃしょうがねぇだろ」
 2人の警備員は顔を見合わせうなずくと、
この街で人気の高いショッピングモールの1階プラザの上り専門エスカレーター口に早足で向かった。