余ノ悪筆ヲ笑フ者ノ所ニハ化ケテ出ルゾ

                 ヒュードロドロ

 

 これは実在する遺書の末尾の文章です。

 誰の遺書だと思いますか?

 と訊くまでもないでしょう。

 この遺書が所載されている

 本の写真を出していますから。

 2.26事件で銃殺刑に処された

 青年将校の1人

 丹生誠忠(にぶまさただ)の遺書です。

 昭和11年7月12日没 27歳でした。

 この書は20年以上も前

 執筆中の小説の資料の1冊として

 購入しました。

 おそらく厳粛な顔をして

 読み進んだと思いますが、

 唯一 この人の遺書の末尾にきて

 声をあげて笑うはめになりました。

 
 時ニ利非ズ、遂ニ獄ニ投ゼラレル


 他の青年将校の多くもそうでしたが

 この人も無念の思いは強かったのですが

 従容として刑場の露になりました。

 末尾の子供のような

 茶目っ気に満ちた文章に

 潔さと

 救国の企てだったという

 自負が覗けて涙を誘われます。

何気なくこの書を抜きとり

 無造作に開いたページが

 この人の遺書のページでした。

 前年に華燭の典を挙げたばかりでしたが

 この人の妻は22歳で未亡人になり

 再婚はしませんでした。

 存命なら100歳を1つ2つ超えています。

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