男女半々ずつ合わせて30人の

 5歳児に読み聞かせを行った。

 子供たちの後ろには

 30人のお母さん方が椅子に掛けて

 見守っていた。

 子供たち全員のお母さんが

 参加しての読み聞かせ会。

 すべてがきちっとしているので

 ああ とピンとくる人も多いだろう。

 英才教育型の幼児教育施設

 に呼ばれたのである。


 1話すませて

 次のお話までの間に

 子供たちに質問を行った。


  クジラの好きなよい子は?
  キリンの好きなよい子は?
  ヒョウの好きなよい子は?
  ウサギの好きなよい子は?
  リスの好きなよい子は?
  カブトムシの好きなよい子は?
  セミの好きなよい子は?

 
 お解りのように

 大きな動物から小さな動物へ
 
 質問を変えていった。

 複数の動物に手を挙げた子供も

 7,8人はいたかな。

 最後に


  ゴキブリの好きなよい子は?

 
 と訊いた。

 男の子が1人 女の子が1人

 サッと手を挙げた。

 好きだというからには

 明確に理由がある。


 きみはなぜゴキブリが好きなの?

 と先に男の子に訊いた。


  飛ぶから


 と答えた。

 お母さんに追われて家具の下に逃げこむ。

 その子にとって

 ゴキブリはそういう認識だった。

 ある日

 開放した窓から虫が飛んできて

 白い壁に止まった。

 ゴキブリだった。

 飛ぶんだ

 と大きな驚きだった。

 つまり

 感動したのである。


 次に女の子に訊いた。

 
  きみはなぜゴキブリが好きなの?


  きれいな黒だから


 と女の子は答えた。

 その子にとって

 ゴキブリの体色は

 とても深みのある黒色で

 感動ものだったのである。


 ところで

 2人の子供が手を挙げたとき

 お母さん席のそこかしこから

 失笑が漏れるなか

 2人のお母さんが

 表情をひきつらせた。


 僕はお母さん方に言った。


  子供には先入観がありません。

  ゴキブリは汚らしいと思うのは

  先入観があるためです。

  叱ってはいけません。

  そこで終わってしまいます。

  なぜなのか理由を聞いてあげてください。

  それを認めてあげてから

  ゴキブリは病原菌をまきちらす

  衛生害虫なのよ

  と教えてあげましょう。



 ドブネズミを汚い

 と思うのは先入観なのです。

 ドブネズミを美しいという人がいても

 おかしくないのです。

 先入観で人や

 ものを見たら

 かえって誤るかもしれません。