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タマ/ブチ/ねえ/MOMO〜

我が家にいた歴代の猫の名である。

タマは母の茶飲み友達である

 近所のおばさんの置き土産だった。

仔猫でしがみついて離れないので

と抱いて遊びにきた。

帰りがけに姿が見えないので探すと

我が家の飼い犬のジョンの小屋の奥へ入り込んでいた。

近所のおばさんが呼ぶと

小屋の外で寝そべっていたジョンが

さっと立ち上がり

近所のおばさんに猛然と吠えかかった。

保護者を自任したようだった。

仔猫の間

タマはジョンを頼りにしていたが

長じて無視するようになった。

ジョンが猫なで声のような声を出し

尻尾を振っているのに

タマは一瞥さえくれなかった。



ブチは勝手口に現れては母に餌をねだった。

汚いノラ猫だったが

母を甘く見て住みつくようになった。

容姿が悪いので2人の姉はともにブチを嫌ったが

僕もこの猫は好きではなかった。

しかし

母がいないと僕に餌をねだった。

アジの開きを与えたことがあって

後で母に叱られた。

猫嫌いの父は特にブチを嫌って

よく後ろ首を掴んで庭へ放り投げた。

そのうち

ブチは父が勤めへ出ると現れ

勤めから帰った気配を悟ると姿を消した。

ブチは3年目に近くの畑で

血を流して死んでいた。

野犬に噛み殺されたのだろう。

野犬が多かった時代だった。



ねえは上の姉がどこからか貰ってきた黑トラで

仔猫のときから精悍だった。

ねえ、と僕がよく声をかけたので

ねえが名になった。

僕の遊び友達だったが

ねえについては「ねこ新聞」の11月号に寄稿している。

そこでは触れなかったが、

雑木林でコジュケイを捕まえ

我が家へ引きずってきたことがあって

猫嫌いの父が そのときばかりは

「たいした奴だ」

と うめくように褒めた。



ねえのあと

我が家は長い長い猫の空白期を迎えた。



僕が家庭を持ち長男次男が生まれ

その次男が小学低学年のとき

アメリカンショートヘアの血が混じった

仔猫を貰ってきた。

MOMOと次男は名づけて

ねえと僕の間柄のように

遊び相手にした。

雌猫ながらねえのようにとても精悍だった。

MOMOが15歳のとき

我が家は家を立て直すことになった。

そのことが決まった直後から

MOMOは体調を崩した。

我が家が取り壊される前日は

段ボール箱を改造した病床で虫の息に近かった。

玄関のドアが開けられる音に

MOMOは病床から這い出して

よろりと立ち上がり

次男を迎えてニャーッと

しゃがれたか細い声で鳴いた。

病床へ戻り

次男にお腹をさすられながら息を引きとったという。

仕事で事務所にいた僕と

アメリカ留学中の長男は

MOMOの死に目にあえなかった。


以降

我が家はずっと猫の空白期を続けている。