地元の漁師に取り押さえられたときに、

K容疑者は異様なほど淡々として冷静だった。

直後に、数人の SPに飛びかかられたときも、

同じく平静で眉1つ動かさなかったように見えた。

下手に抵抗すると怪我をするかもしれない、

どうせ逮捕されるんだから、

おとなしくしているのはいちばんだ、

とまるで達観しているかのようだった。

ある意味では100%確信犯だったんだろう。

こういう若者から納得のいく犯行動機はなかなかつかめないと思う。

引きこもり傾向があったが、

決して引きこもりではなかった。j

ネットの世界で様々な情報を得て

分野によって濃淡があるものの、

浅く広くいろんな知識に通じていたのだろう。

生まれながらのネット世代の若者の1部に見られるタイプで、

情報、知識に通じただけで、

実際に体験したように思い込む。

言い換えれば、

何も体験していないのに、

簡単にやれるのではないか、と思い込んでしまう。

現実には何もやらないことと同じで、

やりたいことに情熱をたぎらせ努力を傾けるという意識に欠けている。

こういう状態が長く続くと、

自分は社会に求められていないのではないか、

という疎外感が次第に強くなってくる。

自分には何の才能も、能力もないという意識とは違い、

ネットで仕入れた幅広い知識を頼りにしているので、

才能も能力も人並み以上にがあると自己評価だけは高い。

しかし、行動に出ない。

n行動しなければ何も得られないということをあまりわきまえていないところがある。

自分を受け入れない社会に対する不満だけが膨らんでいく。

政治の世界に打って出ようと思うようになったのは、

そういう不満を解消するためで

、出れば当選できると簡単に割り切ってしまうところがあった。

政治の世界に躍り出て政治を変えていきたいという大変安易な思考が、

K容疑者の頭の中で大きな部分を占め始めたのではないか。

しかし、被選挙権はない。

自分の望みは断ち切られた、

と絶望的になったのかもしれない。

そして、ふくらんだ鬱憤が政治のトップにいる時の首相に向けられた、

ということではないか。

本物の絶望感がない絶望に突き動かされ、

材料さえ集めれば製造法はネットで熟知している  パイプ爆弾を製造し、

時の首相を襲う準備を始めた。

これはすべて自分1人でできることなので

、その行動に出ることができた。

後は機会を得て実行するだけになった。

K容疑者は絶望感のない絶望に翻弄されながら、

感情を高ぶらせることもなく淡々と現場に出向いて予定の行動を行った。

絶望しなければ行動力が出ない。

絶望感のない絶望に踊らされる若者は1部に過ぎないが、

これから増えていく傾向があるのではないか。