お母さんは

 お父さんときみたちを捨て

 どこかの男と

 よその土地へ

 行ってしまったんだ。

 
 苦労しただろうね

 きみは塾の先生をして

 弟さんも来春 卒業か。

 お父さんはリタイアして

 ボランティア活動を

 生き甲斐にしている。

 お母さんが抜けても

 いい家庭でこれたんだ。

 そのお母さんが

 今になって戻りたいって

 言ってきたんだ。

 お父さんは

 受け入れようとしているけど

 きみは絶対許せないんだ。

 きみの気持ちは

 よく解るよ。

 女だしね。


 僕の話を聞いてくれないか。

 夫と子供を捨てて

 男に走ったお母さんがいてね

 捨てられた子供たちは

 3姉妹だった。

 1番上のお姉さんは

 自分が結婚して

 2児の母になっても

 お母さんを許せないでいた。

 ところが

 上の子のPTAの役員になった頃

 学校へ仕事できた

 カーテン屋の店員と親密になり

 駆け落ちしたんだよ。

 歳月がたって相手が病死した。

 子供たちは

 独立して

 それぞれ家庭を築いていた。

 お母さんがお父さんのところへ

 戻ったんだよ。

 お父さんが受け入れたのなら

 と子供たちは反対しなかった。

 そのお父さんが認知症になった。

 お母さんは初め一生懸命

 介護していたけど

 娘婿が福祉関係で

 その口利きで特養に入った。

 それから男を作って

 もめて別れて

 クローゼットの中で

 首吊り自殺をした。

 つまらない話をしたけど

 2人の子供は

 お母さんを許してよかった

 と言ってる。

 お母さんを許せないでいた

 自分たちを許したんだよ。

 解るかな

 許さないままで死なれたら

 一生深い悔恨が残ったろう。

 
 きみは恋をしてるんだね。

 もう婚約もしたのか。

 許せない気持ちを

 新家庭に持ち込んでどうする。

 これからのきみの幸せに

 その気持ちは害にこそなれ

 何の益も生まないんだ。

 さあ

 許せないでいる

 自分を許そうよ。