貴方のことよりも

 ある若手社員の話をしよう

 仮にA君としておくね

 入社3年目
 
 A君は異動になった

 日陰の部署でね

 窓際族的な社員が飛ばされる

 という噂もあった

 A君は落ち込んだ

 会社は機械部品の中堅メーカー

 A君は超一流大学の

 経済学部をトップで卒業した

 大手の内定を断り

 三顧の礼を受けての

 入社だった

 あいつに足を引っぱられたな

 と思い込んだ

 あいつとは

 同期のY君のことで

 その年の新入社員は

 A君を別格とすれば

 Y君が1位という格付けだった

 A君はY君が

 自分をライバル視し

 ことごとに張りあう意識が

 強いことを気にしていた

 ゴマスリ的で

 廊下で執行役員と

 立ち話していたり

 人事部長と一緒に帰るのを

 目撃したこともある

 その執行役員や

 人事部長が自分を見る目に

 変化が出てきた

 それを感じた矢先の

 異動だった

 A君は退職も視野に置くようになった

 しかし

 Y君に対する意地と

 三顧の礼で迎えられたプライドから

 日陰の部署で

 目覚ましい実績を挙げてから

 退職しようと決意した

 
 会社は伊達にA君を三顧の礼で

 迎えたんじゃないんだね

 A君は伝説になるほどの

 目覚ましい実績を挙げた

 会社はそれを期待しての

 異動だった

 Y君はA君を目標にしていたんだよ

 執行役員や

 人事部長にはリスペクトしている

 と話していたそうだ

 今 A君は最年少の課長として

 将来を大いに嘱望されている

 Y君はその片腕として

 頑張ってるよ

 
 そういうことだ

 宮仕えでは妄想は禁物だ

 力を秘めている人間の

 足を引っぱるやつなんていないし

 そんなやつに引っぱられて

 倒れるやつもいないんだよ