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 9階建ての塔です。
 ピサの斜塔のように
 傾いてはいません。
 真っ直ぐ屹立しています。

 この塔を見ると
 僕はいつも
 不思議な気持ち
 にとらわれるのです。

 会社なのか
 何かの事務所なのか
 前階使っているのか
 それとも上のほうは
 人が住んでいるのか。

 外から見た限りでは
 皆目解りません。

 入り口を入れば
 明確な表示があって
 そうかと納得がいく
 かもしれません。

 いずれにしても
 僕にとって
 謎の塔です。

 通りかかると
 しばし佇み
 想像をたくましくします。
 そのとき
 この塔より高い
 周りのビルは
 スーッと消えます。

 荒野の中に
 この塔だけが屹立しています。
 嵐の夜です。
 周りにまばらに立つ
 松の木々の枝は
 激しく揺れていますが
 どの枝にもカラスが
 鈴なりで止まっています。

 突然
 塔の屋上に魔女が現れ
 指揮者のように杖を振り
 高笑いを始めました。
 
 カラスが鳴き交わしながら
 一斉に飛び立ち
 杖に操られるように
 渦を作って
 旋回を始めました。

 渦は黒い竜巻状になり
 屋上へ移動しました。
 魔女は高笑いを続けながら
 竜巻に吸い込まれました。

 竜巻は西の空に向かって
 上昇していきます。
 高笑いを虚空に残して。

 ああ
 と僕はため息をついて
 現実に戻り歩き始めます。
 つかの間の幻想に
 スッキリして足どり軽く---

 僕にとって十番の1の不思議の
 この塔が好きです。