どう見ても彼は生活力に欠ける
そう親は反対したんだね
貴方は外資系の会社勤務で26歳
その年齢の相場より1・5倍はいい給料を貰っているんだ
彼は28歳
食を転々としてきてフリーター同然で
今は引っ越し会社の契約社員をしていて…
現場勤務だから重労働だねえ
それで 彼は何を目指しているの?
作家か
具体的には今どのように挑んでいるのかな
書いた原稿をつてを頼ってあちこちの出版社へ持ち込んでいるのか
それは難しいよ
出版業界は年々市場が縮んでいる
だからこそ 出版社は鉦太鼓を叩いて
有望な新人を探している
有望な新人が輩出してそれぞれに新しい読者を獲得すれば
業界は活性化するからだよ
具体的には文学賞を設定して
才能に恵まれた新人が応募してくるのを待っている
新人の登竜門としての文学賞は
しっかり実績を挙げてきたものだけでも20や 30はある
才能ある人なら必ずどれかに引っかかって
受賞者として浮上してくる
出版業界が右肩上がりのときは
持ち込み原稿を読む編集者もいたし
ほどほどのものであれば
また運がよければ点数のそろわないときには
出版されることもあった
今は違うんだよ
いくらつてを頼っても断られるか
預かっても数枚読んだだけでほっぽっておかれる
何故だと思う?
才能ある者は文学賞に応募して力試しをしてくる
1発で受賞する人も多い
数回は予選通過や 候補作に挙げられて
力を蓄え受賞する人もい る
例外はあるけれど 持ち込み原稿は
箸に棒にもかからないもので占められている
抜きん出ているという自信がないから
持ち込んで本にして貰おう
と虫のいいことを考えている
貴方は彼の原稿を読んだことがあるの?
2,3回あるか
で どうだった?
小説のことはよく解らないから…
などと口を濁さなくてもいいよ
はっきり言って詰まらなかったはずだ
もう1つはっきり言うけれど
彼には才能はない
貴方は彼が何に向いていると思うの?
穏やかだけど
人に何かを教えるときは丁寧で解りやすい
英検の2級を高校時代に取ったって
教師に向いているのかな
2級を取ったっきりで
1級のための勉強はやってこなかったんだね
でも アメリカの作家の作品を原書で読めるのか
それは凄い
ところで 両親の反対で貴方が迷っているのは
彼にとことんついていくまでの愛がないからかな
何があってもついていく気持ちはある
ただ 彼に地道な道を歩いてほしいんだね
僕も同じ思いだよ
彼には塾で英語を教えるには充分な力があるよ
しっかりした学習塾に勤めたらいい
そして 1級取得に挑む
彼なら2年もやれば取れると思うよ
別れる覚悟で説得してごらんよ
彼はきっと聞き入れる
1級取ったら貴方とは別の意味で
外資系に勤めたっていい
まずは彼を連れてご両親に会わせ
彼に説得させてごらん
きっとご両親は納得する
もしそれでもご両親が折れなかったら
貴方の愛の底力を見せなきゃ
親許を出て彼と生活を共にして
2年ぐらいは2人の生活を貴方中心で支えられるだろ
余談だけどね
20年も経って充分に堅実な家庭を築けたら
また小説に挑戦させてごらん
人生経験を積んだ人が
その体験を活かして書く作品に読み応えのあるものが多いんだ
50歳前後で作家デビューする人は少なくない
もっとも そのときの彼は別の夢を描いているかもしれない
それはそれで御の字なんだから