2駅離れた繁華な街に模型屋があって

 そこへたまに行った

 飛行機の模型キットや セメダインなどを買うために

 

 帰途 裏路地を通って駅に向かったことがあって

 雀焼き と書かれた木の看板が目に入った

 雀の絵も描かれていた

 

 父が土産に持ち帰るヤキトリは鶏だったし

 へえ 雀のヤキトリもあるのか

 と少しの衝撃があった

 

 その衝撃は数年前の不気味な体験につながっていた

 そのとき まだ小学生だった

 愛読していた少年雑誌の発売日で

 駅前の本屋へ買いにいっての帰り道だった

 

 我が家へ戻るには雑木林の中を通り抜けるのが近道だった

 斜めに蛇行した小道を歩いていくと

 分岐した道から長身の男が現れた

 ハンチング帽をかぶり空気銃を手にしていた

 

 昼間だったけど 曇っていて

 雑木林の中は薄暗い

 僕はビクッとして思わず立ちすくんだ

 

 空気銃の男は僕を一瞥しただけで

 小道を横切り灌木が混生して藪のようになったほうへ向かい

 すぐに足を止めて空気銃を構えた

 軽い音がして近くの木から雀が数羽 飛び立って逃げた

 

 ハンチング帽の男は僕を振り替えってから

 また歩きだした

 怖かったけど 怖いもの見たさで

 少し離れてついていった

 

 そのとき 初めて気づいたけど

 ハンチング帽の男のベルトに雀がズラリと吊るされていた

 ハンチング帽の男は木々を見あげながらゆっくり歩いて

 そろっと足を止め空気銃を構えた

 

 軽い音がして雀が羽をバタバタさせて落ちてきた

 彼は拾い上げると雀の両脚をこよりのようなもので縛ると

 素早くベルトに吊るした

 

 ハンチング帽の男は灌木の間を縫って歩きだした

 気配を消して歩いているので

 僕もそろっとそろっとついていった

 

 ハンチング帽の男の姿がすぅーっと見えなくなった

 雑木林にはあちこちに窪みがあった

 それに落ちたのかと僕は思った

 でも 何の呼びかけもない

 

 怖くなってこのまま逃げようかと思ったが

 何が起こったのか知りたくて

 そろそろと灌木の間を縫って近づいていったら

 ハンチング帽の男は灌木の間に腰を下ろし

 上体を低く斜めに上げて空気銃を構え

 身じろぎもしない状態でいた

 

 不意に僕を見て歯を少し見せ

 にたりと笑った

 僕は思わず叫びそうになってうつむいた

 

 軽い銃声がして雀より大分大きい鳥が

 激しい羽音をさせて少し離れたところに落ちた

 草の間で羽をばたつかせてもがいた

 キジバトだった

 

 大学に入ってまだ未成年だったけど

 新しくできた友達と

 雀焼き の店へいった

 その看板は見当たらずまったく別の店になっていた

 

 作家になって新橋のガード下に

 雀のヤキトリの店を見つけた

 鶏や 豚のヤキトリもやっていたが

 売りは雀らしい

 

 偶然 銀座のママにその店へ誘われた

 1羽を竹串2本で挿して焼いてくれた

 タレは淡く塗って焼き上げ

 その上からわさびを塗って出してくれた

 香ばしい味でわさびがその香ばしさを引き立てていた

 

 雀をどこで仕入れるのか訊いてみたかったが

 ハンチング帽の男の不気味な声なき笑い顔が脳裏に浮かんで

 訊く気になれなかった

 

 その新橋の店もとっくにない