私は私が愛する者のみ大切にすれば良いと思っていた。
秋の月。 肉。柔らかな言葉。
殻に籠りその他全てを憎いと思った。
生まれながらに私は地の底を這うような生き方しか出来ないのだと思った。
私は私の良さをひとつとして見い出せなかった。
優しい想いは受け取るが、騙されてなるものかと無下に振舞った。
何かを得させ、失わせる魂胆に乗ってたまるかと。
私は私が感じるもののみで世界は構築されるべきだと自惚れていた。
正気に戻ったかのように、気付いた時には後悔ばかりになり、痣のようにそれらは度々痛むようになった。
あの時こうしていれば、などは思ったとしても無駄だと知っているにも関わらず祈るようにそうせざるを得ないほど、私は何処にも行き場が無いような崖に立ち尽くしているようだった。
酒に飲まれ、感覚を鈍くし、一歩踏み出してしまえば楽になれると思った。
準備は万端だった。
何時までも傍に居るただ一人を覗いては。
その人間は、私が酩酊しながらおまじないのように口にした死にたいという言葉を決して飲まなかった。
そうして私の意識が無い間に、最後ぽつりと零した「死にたくない」という言葉を聞き逃さなかったという。
その人は私に髪を鷲掴みにされその耳元で大きな声で「お前のせいだ」「どうしてだ」と理不尽に喚かれても、大丈夫だよごめんね、今助けてあげるからね。
と私をずっとずっと抱き締めていた。
意識を無くすまでは、私は叫びながら泣いていたのを覚えている。
その抱きしめられた温もり、優しい香り、柔らかな感触。
斜陽のような貴方に、私は傷付けられて悲しかったのだ。
斜陽のような貴方を、私は傷付けたくはなかったのだ。
「絶対に、助けてあげたいと思った」
目を覚ました時に一部始終と、そう最後に伝えられた。
疲弊して、消耗して、もう何もかも終わりを迎えようとしているのは火を見るより明らかだった。
「あなたをずっと愛している」
それはまるで呪いのようだ。
私は貴方が傍に居ないこの白んだ世界で、小さな幸せを探さずにはいられなくなってしまった。
正気に戻ったかのように、気付いた時には後悔ばかりになり、痣のようにそれらは度々痛むようになった。
目線は相変わらず下を向いている。
猫背がよく似合っている。
だが変わったこともあった。
例えば私達がよく目にする花。
白詰草。
こんなどこにでもある小さな白い花にも花言葉はあるのだと知った。
これは貴方が好きだった花。