釣りはなぜ人を夢中にさせるのか、その理由を検証してみた
12/29(金) 11:02配信
JBpress
富士山を遠望する相模湾釣行風景(筆者撮影、以下同じ)
前回「釣りはなぜ人を夢中させるのか、その吸引メカニズムを検証」では、釣りという遊びの中で起こる感動や夢中、飽きるといった人の「感情の動き」を脳科学的視点から紐解いてみました。
【写真多数】ひと塩締めてから焼く甘鯛の絶品塩焼き、など
人間の「脳」は、その情報処理特性から新しい価値を見つけると積極的に吸収し、これが終わると「新たな価値」を求める――というのが一つの帰結でした。
今回は、この「感情の動き」が受動的な事象にとどまらず、人工的に設定した中でも起こることを検証してみたいと思います。
経済活動で作り上げる世界観、具体的には人の購買行動における「経験価値」にあてはめて見てみます。
自らを取り巻く環境や制約の中でも、工夫しながら感動を得るといった、「大人の遊び方」のヒントになれば幸いです。
■ 釣りがもたらす相対的な価値認識
長年釣りをしていると、陸釣りや船釣りのいずれの場合でも、入れ食いの日もあれば渋い日(釣り場や地域などの単位で全体的に釣れない日)もあります。
同じ魚でも日によって釣り人が感じる1匹の価値は異なり、相対的であると感じます。
当然、たくさん釣れた日の喜びや感動は一入(ひとしお)です。
一方で、渋い日など難易度の高い釣りの場面で、経験の引き出しや仮説を駆使して得た1匹は、自身の経験上でも、自己実現や周囲との差として、強い感動や達成感を覚えます。
■ 「感動」を呼ぶ釣りの経験価値要素
まず、「脳」が感動しやすくなる釣りの要素を抽出するために、バーンド・H・シュミット氏が提唱する「経験価値マーケティング」の定義に照らしてみます。
具体的には、人の脳が「価値」として感じる知識や経験に出会った際の「心」の状態を反映した5つの要素に沿って、私なりの解釈と釣りで経験する事象とひも付け・検証してみます。
(参考:「感動のメカニズム」前野隆司 著)
1.五感で感じた価値(体の五感による実体験)
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などを基本として、魚の手応え、潮の香りや風景、後に美味しく食べるなど、釣行から得られる複合的・立体的な五感の体感価値。
2.感情の高ぶりとして感じた価値(楽しい感情が高まる価値)
以前「釣りを百倍楽しくする方法:緊張をいかに解くか」で書きましたが、掛かった魚とやりとりする間の強い緊張感、魚が釣れ上がった時の脱力、そしてかみしめる余韻、また味わいたいと強く願う非日常的な高揚価値など。
3.知見の拡大として感じた価値(知識を得たり、課題が解決する喜び)
実釣体験だけではなく、ウエブや上手な方から釣り方や仕掛けなど、必勝法伝授ともいえる知識に出会い、次回の釣行が待ち遠しく感じるなどの知識の増加価値。
4.体験の拡大として感じた価値(五感で得られる価値が発展的に追加される)
釣行時にあれこれ試して発見する対象魚種の釣果パターン、実釣を重ねて棚取りやルアーなどの飛距離や着水場所のコントロールなど、実感する技術的な能力・経験価値の向上。
5.関係性の拡大として感じた価値(同じ価値を持つ人との交流や情報ネットワークの拡大など)
釣行会やSNSなどを通じた共感や情報との出会い、通って馴染みの船宿ができたことで要領を得たり、常連さんとの交流も広がるなど、安心して釣行できるといった釣行を支える環境などの価値の増加。
このように、釣りという遊びから得られる効用を「経験価値」で整理してみると、釣り人が感動とともに居心地の良い時間を過ごせる「価値」は、釣果として得られる体感や高揚以外にも、
1.知識や技術の向上の過程で得られる目標感や達成感
2.釣行の要領、情報取得方法など、経験的に積み上がる釣行環境
といった、その過程や環境にまで及ぶことが考えられ、その中にある釣果だけにとどまらない仮説検証の面白さは釣り人自身で発見、組み立てができるものと考えられます。
思えば私の場合も、初めての堤防釣りで偶然に味わった青物の引き味に魅せられ、型を求めて多くの地に通い詰めました。
これが遊漁船の沖釣りで一瞬のうちに達成された衝撃。
さらに、狙い魚種を定めて魚の居る場所、居る時に仕掛けを下ろして初めて釣技の勝負になることにも気付かされ、その後の陸釣の遊び方まで変えました。
何より陸釣りや遊漁船それぞれに、新たな魚種や釣り方への挑戦、例年の釣行でも試したいテーマごとの仮説検証をバランスよく楽しむ現在のスタイルには、とても満足しています。
そういった意味では、趣味としての釣りの原点を、見えない海中の魚の生態や自然現象を仮説検証で解いていくゲームと捉えれば、少しスタンスを広げて、実釣以外も「釣り」とした価値認識ができるのではないと思います。
例えばハゼやアジといった初心者でも楽しめる対象魚が、いつまでも黒帯級釣り師の心を惹きつけるのは、尽きない大小様々な遊びや感動があることを心得ているからではないかと思います。
自身の取り組み方次第で「脳」は夢中になりなさい・・と囁くかもしれません。
■ 今回の釣行
一度釣行してみたかった沖の甘鯛釣り。
特に、誘って「食わせる」この釣りは、最近の陸釣で楽しんでいるカワハギやイシモチなどと並んで、尽きない仮説検証の面白さに期待しています。
晩秋から旬にさしかかる沖の甘鯛釣り。
例年の釣行パターンでは機会を逸してしまうこともあり、今年は、例年より良型多数で満足に終えたイナダ釣りのおかげで、心置きなく晩秋に初挑戦となりました。
1.時期:11月上旬
2.時間帯:6時出船~14時頃沖上がり
3.潮回りは中潮。上げ8分から下げを経て再び上げ3分あたりまで
4.海況:北東の風、風速0~1メートルのベタ凪
5.道具:2本継ぎ7:3のしゃくり釣り用の軽量カーボンロッドに小型電動リールを組み合わせていきます。
機能と利便性、手探りの組み合わせとなりますが、一日手持ちとなることを想定した最も軽い組み合わせを選択しました。
6.釣況:
初めての甘鯛釣りということもあり、あらかじめウエブにて予習。
最近は初めての釣りでも、事前に動画を見てイメージが作れる良い時代になりました。
当日の序盤戦は潮の流れが悪く、乗船者の皆さんとともに苦戦。
その中でもイメージした誘い方や棚取りで始めてみると、早々にアタリ。乗りませんでしたが、うれしいサインです。
しばらくすると、船長から「誘いを小まめに」とのアナウンスが入ります。
そこで、これまでのゆっくりとした「聞き合わせ&フォール」(スローに竿先を持ち上げ下ろす動作)から、シャクリ釣りの要領で一定の棚を小さく動かして2秒待つ要領で繰り返してみると、竿先を引き込む待望のアタリが来ます。
ドラグも緩めに慎重に上げてくると、小ぶりなイトヨリダイが海面から顔を出します。
ようやく「今日の答え」が見えたところで、粘り強く繰り返していくと、小振りですが待望の甘鯛、その後は、30センチクラスの型の良いイトヨリダイや、ヒメコダイ、棚が低すぎたか小ぶりなヒラメやエソが続き(こちらはリリース)ました。
大漁とはいきませんでしたが、飽きないほどに釣果もあり、初挑戦は何とか形になりました。
妙な例えかもしれませんが、沖の大アジ釣りで渋い日に聞き合わせで誘う要領や、沖のウィリーを使ったシャクリ釣りの食わせの間を作る要領で「乗せる」感覚はよく似ており、興味深い一面でした。
一方でライトタックルを使っていることで、小さなアタリや引き込みがダイレクトに伝わる感触は、堪らない面白さでした。
■ 今回の料理
今回、待望の甘鯛は鱗までサクサク食べる松かさ揚げや塩焼き、そして昆布〆のお刺身に。イトヨリダイは湯引きのお刺身や型も良いものは煮付けにしました。
今回の甘鯛釣りは、常連さんに伺ってみると、とても渋い日であったようです。
でも、初挑戦の私にとっては、釣果はもちろんのこと、事前に得た知識やこれまでの経験を交えて試行錯誤が楽しい1日でした。
濱田 淳二
個人の意見
理由なんかない。