収録作品のご紹介(1)『トラウマ文学館 ひどすぎるけど無視できない12の物語』(ちくま文庫) | 「絶望名人カフカ」頭木ブログ

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文学紹介者です(文学を論じるのではなく、ただご紹介していきたいと思っています)。
本、映画、音楽、落語、昔話などについて書いていきます。

新刊『トラウマ文学館 ひどすぎるけど無視できない12の物語』ちくま文庫

 

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こちらも収録作品を少しずつご紹介していこうと思います。

 

目玉作品が多いのですが、

まず、直野祥子『はじめての家族旅行』!

多くの少女にトラウマを与えた、少女漫画です。

 

 

そもそもは、『82年生まれ、キム・ジヨン』などが話題の翻訳家の斎藤真理子さんから、子どもの頃に読んで、「本当に怖かったんですよ。あんまりリアルで刺さるようで、友達や姉にも、『ほら見て、これ、すごいよ』なんて気軽に言えない感じ」だったという話をお聞きしたのが発端でした。

 

斎藤真理子さんは、作者もタイトルも掲載雑誌も忘れておられたのですが、内容はしっかり覚えておられました。「子ども心に、かなりはっきり刻印されました」とのことで、まさにトラウマ漫画です。

その内容がすごく面白いので、ぜひ見つけたい!とさがし始めました。

 

つきとめることができたのは、じつはTwitterのおかげです。斎藤さんの問いかけに、有力な情報を寄せてくださった方がおられました。斎藤さん以外にも、この作品が心に刻印されていた人たちが、たくさんいたのです。

 

一九七一年十月号の『なかよし』(講談社)という月刊少女漫画雑誌に掲載された、直野祥子『はじめての家族旅行』とわかりました。

掲載当時、ダンボール箱いっぱいの手紙やハガキが届き、「こんなに反響があった作品は初めて!」と編集部の人たちが驚いたそうです。

 

ひとみに星を浮かべた少女たちが恋愛をしていた当時の少女漫画雑誌に、この内容が掲載されたということ自体が驚きですが、読んだ少女たちも、いつもは書かない人まで手紙やハガキを書きたくなるほど衝撃だったんですね。

 

この作品をぜひ掲載したいと思いましたが、問題は原稿が残っているかどうかでした。作者の直野祥子さんをお探しして、お会いしたとき、「実家が阪神・淡路大震災で実家が崩壊し、初期の画稿の多くが失われた」とのことで、ああっと思いましたが、

 

この作品は直野さんが雑誌の切り抜きを別に保存してくださっていました。それをスキャンし、汚れなどを消し、今回、掲載させていただきました。奇跡的に残っていて、本当によかったです。

斎藤さんにも、「まさか生きているうちにこれと再会できるとは思っていませんでした」と喜んでいただけました。