『4歳の僕はこうしてアウシュヴィッツから生還した』
マイケル・ボーンスタイン、デビー・ボーンスタイン・ホリンスタート (著),
森内 薫 (翻訳)
NHK出版
という本をご恵投いただいた。
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4歳の僕はこうしてアウシュヴィッツから生還した
1,944円
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正直、困ったなと思った。
絶望とかについて語っているから、
こういう本をお送りくださったと思うのだけど、
私はじつは、悲惨な実話とか、とても苦手。
恐ろしくて、とても読めない。
とはいえ、せっかくお送りいただいものを無視するわけにもいかず、
とりあえず、腰は引けたまま、まえがきにあたる、
「序文 語るときが来た」
に軽く目を通した。
そうしたら、
これはご紹介しないわけにはいかなくなってしまった!
というのも、
そもそものこの4歳がアウシュビッツから生還した、
マイケル・ボーンスタインという方は、
もうかなりのご老人だが、
自分の体験をずっと語ってこなかったというのだ。
人から聞かれても、
取材を申し込まれても、
娘から頼まれてさえ、
断り続けていたのだ。
こういう方、けっこう多いと思う。
その理由はいろいろだろう。
つらいことを思い出したくないとか、
語ってもどうせ本当にはわかってもらえないとか、
人に言うことではないとか。
ボーンスタインさんの場合は、
「あんな恐ろしい出来事を思い返したいわけがない」
ということと、
もうひとつ、
なにしろ4歳だったので、
自分の記憶に自信が持てないということもあったようだ。
自分が語れば、それは歴史的事実として刻まれる。
間違ったことを語りたくないという思いもあったようだ。
では、なぜ語ることにしたのか?
アウシュビッツ解放後に、
ソ連が記録映画を撮っていた。
そこには、4歳のボーンスタインさんも映っていた。
ある日、ボーンスタインさんは、
ネットでその映像を見つける。
そのこと自体に問題はない。公開されている映像だ。
しかし、載っていたサイトが問題だった。
「ホロコーストは嘘で、存在しなかった」
と主張するサイトに載っていたのだ。
ボーンスタインさんは、「大きな衝撃を受けた」
「歴史の歪曲を望む人々向けに、私の写真が利用されていた」
映像は、アウシュビッツ解放から数日後のもので、
救出された子供たちは、何枚もの衣服でくるまれていた。
そういうことまで、じつはアウシュビッツの待遇はひどいものではなかったという証拠とされていた。
「あまりにもひどい話だ。手は怒りに震えていた」
「私ははんきり自覚した。
もしも生存者たちがこのまま沈黙を続けていたら、
声を上げ続けるのは嘘つきとわからず屋だけになってしまう」
ボーンスタインさんは、自分の体験を語る決心をしました。
そして、記憶が曖昧な部分は、
娘のデビー・ボーンスタイン・ホリンスタートさんが、
調査を行いました。
そうして、誕生したのがこの本です。
大人だけでなく、子供でも読めるように、
読みやすい文章の物語になっています。
でも、
「文中で起きる主要な出来事はすべてまったくの事実です」
と娘さんは書いています。
この序文を読んでしまっては、
これはもうご紹介しないわけにはいかないでしょう。
なので、今、微力ながら、これを書いています。
そして、これはもう読まないわけにいきません。
これからちゃんと読むつもりです。
日本でも、戦争を経験した人たちが少なくなっています。
そして、戦争について語らないまま亡くなってしまった人たちも多いです。
戦争をノスタルジックな美談として語る人はたくさんいますが、
ひどい体験をした人ほど、なかなか語らないものです。
これはとても危険なことです。
山田太一は、
『男たちの旅路 スペシャル 戦場は遙かになりて』
というドラマで、そのことを警告していました。
登場人物がこういうことを言っています。
吉岡
「若い者は、おとぎばなしを本気にします。
国のために勇ましく戦って死ぬのも悪くないと思うでしょう。
国のために死を決意する、国のために命を捨てる、本当にそうだったですか?
一部の、思い上がった指導者のために、苦し紛れに考え出した、むちゃくちゃな攻撃方法のために、どれだけの若者が死んだか、日本人が死んでいったか、いや、殺されたといってもいい。
本人はともかく、残された家族はいったいどうなるんですか。
それが、それがあなたの言ってる、勇ましいことですか。勇気ということですか。
私はそうは思わない。あんな思いは、二度と繰り返しちゃいかん。
今、現在、戦争なんてもんは絶対やっちゃいかんと、大声で叫ぶのは、いや叫べるのは、現実に機関銃を撃って戦ってきた我々じゃないんですか。
戦争を経験したものが年を取ってきて、その思い出を美しく語ろうとしている。そんなことでは、風向きが戦争に向き始めたとき、私たちは何の歯止めにもならない」
ボーンスタインさんが、ようやく語ろうと決心してくれた、この本。
ぜひ多くの方に手にとっていただきたいと思います。