越すに越されず越されずに越す | 「絶望名人カフカ」頭木ブログ

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文学紹介者です(文学を論じるのではなく、ただご紹介していきたいと思っています)。
本、映画、音楽、落語、昔話などについて書いていきます。

いよいよ新年ですね。

 

29日の『絶望名言』の放送で、時間がない場合はカットすると前もって言われていたのに、「次は江戸狂歌をご紹介します!」と思い切り言ってしまいました。皆さんもハッキリと気づかれた失敗は、これだったと思います。

どういう言葉をご紹介しようとしていたかというと、これです。

 

味噌漉(みそこし)の底に溜りし大晦日 

越すに越されず 越されずに越す

 

江戸時代はツケで買い物をして、月末に払っていたわけですが、何カ月か払いを延ばすことはできても、大晦日はそうはいきません。払わないと年を越せません。でも、払えない場合もあり、時間がくれば新年になります。

 

そういう大晦日の借金の苦しみを面白く歌ったものです。

現代人の場合は、この狂歌に、「年内に必ず終わらせないといけない仕事があるのに、年内に終わりそうもない」という苦しみを重ね合わせる人が多いのではないでしょうか。

あるいは、年内にかなえたかった夢があったのに、無理そうとか…。

 

そういう意味で、年末にご紹介したかった狂歌です。

 

また、それからさらに、こういうお話もしたいと思っていました。

絶望は「時が解決してくれる」と言うけれども、時が解決してくる絶望もあれば、いくら時が経っても癒されない絶望もあると。

 

「時が解決する」と、時間は万能薬のように言われますが、決してそんなことはありません。時間だけでは解決されないこともあります。

そんなとき、「もうずいぶん経つのに、いつまでも絶望しているなんて」と、責めないであげてほしいのです。

 

今年も、悲しみから立ち直れないまま、年を越していく人がおられると思います。自分自身でも、いつまでも立ち直れない自分を責めてしまう人もいます。しかし、時はすべてを解決してくれるわけではないのです。ずっと倒れたままでも仕方ないこともあります。

 

そのことを忘れずに、越されずに越しても仕方ないと、ぜひそう思っていただきたいと思います。

 

それでは、皆様、人それぞれにさまざまな新年をお迎えください。

前向きな人は前向きに、立ち直れる人は立ち直り、まだ倒れたままでいるしかない人はそのままに。