新刊『絶望図書館』(ちくま文庫)の収録作について、ひとつずつご紹介していこうかと思っています。順不同に思いついたものから。
今日は、ウィリアム・アイリッシュの短篇『瞳の奧の殺人』について。
アイリッシュの短篇で最も有名なのは『裏窓』でしょう。ヒッチコックが映画化し、代表作ともなっていますから。
足を骨折し、自分のアパートの部屋で車椅子生活のカメラマン。退屈しのぎに望遠カメラで向かいのアパートをのぞいていたら、殺人が!
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裏窓 (字幕版)
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『瞳の奧の殺人』では車椅子の老婦人が主人公でしたが、『裏窓』でも車椅子の男性が主人公です。アイリッシュはこのように、どこかに弱さを抱えた人物が、その弱さゆえに追い詰められていくサスペンスを描くのが、とても巧みです。なんだかせつない気持ちのときに読むと、じつにいいです!
アイリッシュの短篇が原作の映画には、『裏窓』の他に、じつは『窓』という映画もあります。似ててややこしいですが、じつは隠れた名作!こちらでは子供が主人公。子供ならではの弱さが、なんともせつないです。2013年にDVD化されました。
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窓 [DVD]
3,024円
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アイリッシュの長篇で最も有名なのは『幻の女』でしょう。新訳版が出ていますが、有名な稲葉明雄訳の冒頭文を遺族の許可を得てそのまま使用したという嬉しいもの。新訳は、旧訳のいいところは残するようにすれば、積み重ねでどんどんよくなるわけで。
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幻の女〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
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『幻の女』の出だしは、ある男が、派手な帽子をかぶった女と出会い、いっしょに夜を過ごしている間に、妻が殺害される。アリバイのために女を探すが、その晩出会ったバーテンたちは「あなたのことは見たが、そんな女はいなかった」と証言する。なぜ誰も女を見ていないのか? 実在しない幻の女のなか?
この出だしで「あっ、なんかそんな出だしの小説を読んだことがある、映画を見たことがある!」という人も多いでしょう。じつはもともとは実話に基づく設定で、いろんな小説や映画に用いられています。どう解決するかが見せ所。いろんな名作があるので、それはまた明日にでもご紹介したいと思います。