映画「スケッチ・オブ・ミャーク」の公開が、
明日の15日(土)から東京都写真美術館ホールで始まります。
今後、全国順次公開されていきます。
映画「スケッチ・オブ・ミャーク」公式ウェブサイト
この映画、とってもいいです!
ただ、「どういいのか」という説明が、
とても難しい映画でもあります。
観れもらえればわかるんですが……。
どういう映画かと言うと、
「ミャーク」というのは沖縄の離島の宮古島のことで、
この映画は、その宮古島に残っている
「神歌」や「神事」に関するドキュメンタリーです。
と言うと、
多分、興味を失う人も少なくないのではないかと思います。
「どこかの島の古い歌や宗教儀式なんか見たって仕方ない」と。
「伝統保存は大切だろうけど、見る気はしないなー」と。
でも、ロシアのニコライ・ネフスキーという学者は、
「日本の古いものは、日本の端っこに残っている」として、
北海道と、そして宮古島を研究しました。
宮古島には、かつての日本が、まだ残っているのです。
昔の歌、昔の民話、昔の生き方……。
「古い」ということが重要です。
10年前、20年前は、
今の私たちにとっては、たんに古くさいだけかもしれません。
しかし、
おそしく古いということになると、
衝撃的なほど斬新です。
たとえば、
古楽が、クラシック以上に現代的であるように、
古い民話が、19世紀文学より、はるかに前衛的に感じられるように。
かつて、
ピカソは、アフリカの芸術と出会って、
自らの斬新な作風を確立しました。
白人と黒人の出会いで、
ロックやジャズが生まれました。
リゲティは、
世界中の民族音楽を研究することで、
新しい境地を開きました。
しかし今や、
世界はどんどん均一化されつつあります。
まったく知らない地域の、
まったく知らない音楽や文化にふれて触発される
ということが難しくなっています。
どこに行っても、
マクドナルドがあり、
同じようなビルのある街で、
同じような服を着て、
同じような音楽を聴いて、
同じような映画を観て、
同じような小説を読むようになってきています。
このまま世界の均一化が進むと、
「もはや新しいものが生まれなくなってしまうのでは」
と危惧している人もいます。
新しいものは、
異質なものとの出会いから、
生まれることが多いからです。
そういう意味でも、
古いものは貴重です。
そこには、
まだまだ驚くべきものが残っています。
マルケスは、
昔話の語り口によって、
新しい文学を生みだしました。
しかし、古いものはどんどん消えようとしています。
宮古島にも、今、最初のマクドナルドが建設中です。
このままでは消えていってしまうからと、
本来は、誰にも見せない神事、聞かせない神歌を、
宮古島のお年寄りたちも、
こうして記録に残すことに承知したわけです。
観るとわかりますが、
よくぞ記録してくれたと、
本当にそう思います。
この「古い新しさ」に、
せひふれてみていただければと思います。
なお、
登場してくる宮古島のお年寄りたちの
木の年輪のような味わいのある顔、
キャラクターの面白さも見所です。
それから、
近所のスーパーに買い物に来ているような、
ごく普通のおばさんが、
「神の馬を見た」とか、
「死んだ身内といっしょに歩いた」とか、
あたりまえのことのように話します。
現代の日常と、
神話の世界が、
ごく自然に両立していて、
魔術的リアリズムかと思ってしまいます。
と、見所を書いていると、
いつまでも終わらないので、
これくらいにしておきますが、
ロカルノ映画際で、賞をとっていることからもわかるように、
海外の人が観ても面白い映画です。
この映画のもとになったCDもあるのですが、
それについては、またあらためてご紹介します。
HMVで特集ページが組まれているので、
まずそれだけご紹介しておきます。
http://www.hmv.co.jp/news/article/1209030057/?utm_medium=twitter&utm_source=dlvr.it