『カフカと強さと弱さ』(8)「弱さゆえに、強さゆえに」 | 「絶望名人カフカ」頭木ブログ

「絶望名人カフカ」頭木ブログ

『絶望名人カフカの人生論』『絶望読書』『絶望図書館』、NHK『絶望名言』などの頭木弘樹(かしらぎ・ひろき)です。
文学紹介者です(文学を論じるのではなく、ただご紹介していきたいと思っています)。
本、映画、音楽、落語、昔話などについて書いていきます。

◆弱さゆえに、強さゆえに

カフカはその弱さゆえに、他の人たち以上に現実をとらえ、
決して現実をのりこえず、それに押しつぶされ、
その強さゆえに、それらをそのままの鋭さで欠けるところなく保持しつづけ、
適当な形にまとめてしまうことなく、妥協なしに描き切ろうとした。

「あらゆることは等しく彼を始めから終わりまで不安におとしいれてやまない」(カネッティ I)

「あらゆるものが彼の肉を斬り、敵には何ごとも起こらない」
「失敗に失敗を重ねても彼はけっして成功しない。困難は依然として困難である」
「向かって進みたいと思うすべての目標が数知れぬ疑念によって近づくかわりに遠ざかる」
(〃 G)

「彼はあらゆることにけりをつけないし……あらゆることは決して言いつくされない」(〃 I)

「何ひとつ彼から失われてはいない」
「こんなふうにして彼が常に保存しているものはすべてメスのように鋭い」
(〃 G)

「どんなことにも彼は『見きりをつけ』たりしなかった」(ブロート E)

彼の天才をこれだけの性質で説明しつくすことはできないが、
しかし彼が他の誰よりも現実をとらえることができたのは、
これらの性質が大きく関与している。