こんなレビューを目にしました。
「絶望のさ中にある人には、ある種の劇薬になりかねない」
「絶望を通り過ぎた人向きかな」
こう思われるのは、
無理もないと思います。
絶望している人に、絶望の名言集なんて、
首つりをしている人の足をひっぱるような、
溺れている人に石を抱かせるような、
そんなことにすら思えます。
でも、実際にはそうではないんです。
私自身、
20歳で突然、難病と言われ、
一生治らないと言われ、
医師から、
就職も無理、
親に面倒みてもらって生きていくしかない
と言われ、
でも、親にはそんな経済的な余裕はなく……。
病院のベッドの上で何ヶ月も過ごし、
出ても、また戻る……
他の20代が人生を謳歌しているときに、
自分は病室の中。
そんな日々は、
まったく自分の未来が見えませんでした。
そんなときに、
心の支えになってくれたのが、
カフカの言葉なのです。
ですから、私としては、
絶望している人にこそ、
読んでいただきたいと思っております。
14歳の女性の読者から、
こんな読者ハガキをいただきました。
「一緒にどん底まで落ちてくれる友達のような本です」
私もまさにそう思っています。
つらいとき、いっしょに泣いてくれる人は、
本当に救いになります。
これも入院中の経験ですが、
「この人にはわかっている」と心から思えて、
いっしょに泣けると、
びっくりするほど救われます。
性格も年齢も境遇もまったくちがう、
どこの誰かもわからないおじさんでしたが、
いまだにその人は私の心の中に残っています。
相手もきっとそうでしょう。
ですから、
カフカと自分がまったくちがっていて、
自分と重ね合わせることがまったくできないとしても、
この本の言葉が、
きっと救いになる人もあると思っています。
本書のいちばん最後のカフカの言葉は、
そういう人の手に届けばいいなあという願いを込めて、
選びました。
もちろん、
絶望していない人たちには、
笑って読んでもられえば、
それはそれで嬉しいことです。
カフカが自作を友達に朗読したとき、
友達は笑いだし、
カフカもそれにつられて笑うこともあったのですから。
カフカも作家の日記や手紙を読むのが大好きな人でした。
それを支えにしていたところもあります。
自分の日記の一部を親友に読んで聞かせたりもしています。
どこを読んだんだろうなぁと思います。