今回の『絶望名人カフカの人生論』は、
カフカの日記や手紙や断片の中から、
さまざまな言葉を集めた、
絶望の名言集ですが、
じつは、カフカ自身も、
そういう本を読んでいたのです。
キルコゲールというデンマークの哲学者がいます。
『不安の概念』『死に至る病』などの本が有名です。
タイトルからも感じとれるように、
この人もそうとうネガティブです。
「絶望は長所であろうか、それとも短所であろうか?(中略)絶望はその両方なのである」
「人生は前向きに進むしかないが、後ろ向きにしか理解できない」
などの言葉があります。
カフカは、
キルケゴールの日記の中の言葉を
ヘルマン・ゴットシェートという人が編訳した
『士師の書』
という本を手に入れて、
読んでいます。
そして、日記にこう書いています。
「今日、キルケゴールの『士師の書』を手に入れた。
予感していたように、
さまざまな本質的なちがいにもかかわらず、
彼の場合とぼくの場合は、とてもよく似ている。
少なくとも彼は世界の同じ側にいる。
彼はまるで友人のように、ぼくの肩を持ってくれる」
キルコゲールのネガティブな日記によって、
カフカが勇気づけられている様子がよくわかります。
そのカフカの日記などから、
今度は私が名言集を編んだわけですが、
そういう本の必要性を、
カフカなら同意してくれるのではないかと思うのです。