最近、『ゲーテの恋 ~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」~』
というゲーテの伝記映画が公開になりました。
有名人の伝記映画というのは、たくさんあります。
ショパンなんか、何度映画化されたかしれません。
でも、あれほど有名なゲーテの伝記映画が、
じつは初めてなんだそうです。
その理由が、
この映画のプロダクションノートに書いてありました。
これがなかなか面白いです。
「詩人、小説家、劇作家、自然科学者、哲学者、政治家、法律家
──どのジャンルにおいても、歴史にその名を刻んだ不世出の天才、それがゲーテだ」
「ゲーテは裕福な家の出身で、顔立ちが美しく、社会的にも成功を収め、
言わば万能の天才だったので、映画にするには面白みがないと思われたのだろう」
なるほどですね。
生まれつき才能にも容姿にも財産にも恵まれていて、
そのまま大成功では、映画にならないかもしれません。
一方、同じドイツ語作家であるカフカも、
やはり伝記映画はないと思います。
私の知る限りですが。
(「KAFKA 迷宮の悪夢」にはカフカが出てくるそうですが、
伝記映画ではありません)
なぜでしょうか?
その理由もハッキリしているように思います。
カフカの人生には、ドラマチックな出来事が何も起きないからです。
それなりに裕福な家に生まれ、大学を出て、
サラリーマンをして、そこそこ出世もして、
病気をして、死んでしまいます。
恋愛もしますが、ほとんどが手紙のやりとりだけです。
これでは映画にしようがありません。
ところが、この人生の何事もなさに引き比べて、
カフカの小説はものすごく変わっています。
そして、カフカの絶望は、とことんまで深いです。
これはいったいなぜなのでしょうか?
その理由をカネッティは、こう書いています。
「一見ごく平凡な事態にあっても彼は、
他の人たちがその破壊の仕業によって初めて経験できることを経験したのである」
ちょっと難しい言い方ですが、
これがいったいどういう意味なのか、
また後で書いてみたいと思います。