ヤマトの背後に見える影
今回は宮武一貴氏の描くヤマトの舷側にある膨らみ(バルジ)の「正体」を明らかにしておきたい。
これがどこからやってきたか、答えを知るひとは少ないのではないか。
そもそもこのバルジは劇中ではほとんど描かれることがない。バルジがあるカットといえば稀代のアニメーター友永和秀氏による画や
上掲の設定画から起こされた画が何度か使われているものの、
それ以外は目を皿のようにしてチェックしてもほんの僅かしか見当たらない。
それでもヤマトのデザイン的にはあったほうがいいというのが多くの人の共通認識のようで、2199の時点でメカデザイナー玉森氏は改装案としてバルジを提案していたし、
電撃ホビー2013年1月号
2202で正式に設定としてバルジが加わっても(私の知る限り)誰も文句を言わなかった。
さてこの膨らみはどこからやってきたのか。
戦艦長門や陸奥にはまさにこんなバルジがついている。これは、改装に伴う舷側の装甲板追加によるものだ。写真のようにバイタル部分で厚く、艦首艦尾に向かうほど薄くなるので、舷側の折れ目の線が艦中央部に向かってせり上がる形になる。
しかし大和は最後までそのような改装を受けていない。
舷側に凹凸はあるが、その折れ目は喫水線と平行に走っていて、艦中央部に向かってせり上がる長門型の膨らみ方と明らかに違う。
つまりヤマトの舷側の膨らみの源を軍艦の大和に求めることはできない。
ところが、宮武一貴が大和を描くとせり上がりながら舷側が膨らむかのようなラインが描かれる。
本物の大和とは違う造形はどこから来たのか。
それは上掲の本のタイトルとページの全体を見ていただければわかる。
「サブマリン707・パーフェクトガイド」
この本に宮武一貴氏は大量のイラストを寄稿し、707への愛を切々と語っている。
そしてこのページで氏は「707の個性は独自のものだが、その背後には『大和』の姿が見える」と述べている。
707の背後に大和を見ている宮武一貴氏が大和を描くとき、逆に707の姿が氏の描く大和の造形に反映されるのだ。
それがわかると、氏のデザインしたPSヤマトの舷側にある謎のスリットも意味がわかる。
この折れ目部分に並ぶ穴は707や青の6号にも見られるが、これが何かというと、潜水艦の耐圧部とデッキの間の水を排水する穴だ。
潜水艦にはこういう風に舷側に穴が並んでいるものがある。この展示模型の裏に回るとカットモデルになっていて中の構造がわかるのだが
下の白い部分は操舵室や魚雷管がある耐圧部で、潜水中も浸水しない。その上のグレーの部分にはそこに入れなくてもいい機構があり、潜水すると水が入ってくる。
そして浮上すると奥に見えている穴から排水するわけだ
もう一度表に戻ってみていただこう。耐圧部は徐々に太くなる筒型であるのに対し、浸水部は必要な機構を収めつつ浮上時にデッキとして使える幅があればいいので、同じようには太くならない。その結果、舷側が後ろほど張り出しているような、まさに宮武氏が描くヤマトの舷側のような面構成が出来上がるのだ。
宮武氏の描くヤマトの舷側の膨らみは潜水艦にその源があるわけだ。
一方でリブートシリーズでの膨らみは長門や陸奥と同様に、装甲の強化によるものということになっている。もちろんデザイン的には明らかに宮武ヤマトに影響されたものなのだが、この設定のため全く別のモチーフから来た膨らみがたまたま宮武ヤマトに似ている、という格好になっているのだ。
ちなみに上掲の写真は呉にある「てつのくじら館」で撮ったもの。大和ミュージアムのそばにあるので、大和を見たらついでにこちらも見ていただければ、ヤマトデザインの源により完全に触れたことになるわけだ。