病状説明の後、数日して、退院支援の看護師さんから連絡があった。
紹介していただいた施設は、「看多機」だった。
看多機能は、特養でも、老健でもない
施設利用者の体調や家族の都合で、自宅で過ごしたり、施設で過ごしたり選択できる施設ということだった。
施設の送迎の都合がつけば、今日は施設で過ごして、明日から○日間は自宅で過ごしたい。その間、入浴で一日だけ日中の通いで過ごして夕方帰りたいという具合に、施設利用者の要望に応じて、柔軟に対応してくれるということで、我が家のニーズにマッチした施設だと思いますということで、退院支援の看護師さんから紹介された。
早速、施設の方へ連絡し予約をして、母と見学に行った。
年齢は、80代後半~90代の利用者さんが多く、意思疎通ができる方が少ない印象だった。非常に高齢な方が多く、認知症を患っていたり、ゆったりと過ごす施設という感じだった。それに、体調がかなり悪い方は、個室で過ごされていて、食堂・談話室にも出てこない。
自宅で過ごすことが大半だが、家族の都合で自宅で過ごすことができない日は泊まりにきたり、自宅で見守りする家族がいない時間は、施設で日中を過ごしたりするという感じで利用されている方が多いようだった。
そして体調が悪化してしまえば、看取りのできる施設で、日中は看護師が常駐で、夜間は施設職員のみ。
リハビリをするような雰囲気ももちろんなく、目が離せない利用者さんは食堂と談話室を兼ねた大きなホールのような部屋の片隅に寝かされていた。認知症の方が、よくわからない事をずっと言って言っていて、看護師さんや施設併設の事務所にいるケアマネさんがずっと対応していた。
食事は、施設で作っているのではなく、食事をつくる工場(施設?)で作ったものがパウチに入って届けられ、鍋で温めたり、混ぜたり、盛り付けたりする最終工程を施設で行って提供しているとのことだった。
正直、退院後は施設で体調を整えて、体調がもう少し回復すれば歩いたりリハビリをしたいと思っている父の考えとは合わない雰囲気だった。
社交的な父は、体調が回復すれば、施設に入所の方とおしゃべりして過ごしたりしても良いなと思っていたようだった。
自宅に戻ったり、施設に泊まったりすることが柔軟に対応していただけるのは、とても我が家の希望にマッチしていたが、父が前向きに過ごしたいと思っている気持ちとはマッチしておらず、悩んだ。
退院支援の看護師さんと再度相談したところ、「正直、いつまた急性増悪を起こして動けない状態、医療的介入が必要になるのかわからないくらいの容態で安定しているだけなので、老健も特養も○○さん(父のこと)には、あまりオススメできないと思います」との返事だった。
「体調の良い時、今のうちに自宅でどんどん過ごす。」「ご家族が負担になるので、合間には、○○さんに施設で過ごしていただく日をつくっていただく。そうやって、過ごされることが良いと思いますよ」とのことだった。
だが、父が、この施設に入所したら、ショックだろうなぁと思った。
入院中に、父は80歳の誕生日を迎えた。
母が朝、お祝いのお赤飯を炊いて、お見舞いに行く私に持たせてくれたので、病室で父にすすめたが、入院中の誕生日なんて、嬉しくないと言って、一口だけしか食べなかった。
家族のお誕生日は、いつも母がお赤飯を炊いてくれていたが、父は病室にいてお祝いする気持ちになどなれなかったのだと思う。
急性増悪から約一か月の入院をして、やっと退院だった。
退院して、入所した日、私は病院から施設までの付き添いをした。
入所した父は、施設の雰囲気を感じ取って、「俺はこんなところまで来てしまったのかな・・・もう死ぬだけだな・・・・こんなところにいたら死んじまう」とショックを受けていた。
私は、必死に伝えた。
「特養、老健などの施設だと、自宅と施設との行き来が自由にはできない。」「体調が良い時にはどんどん自宅に帰宅して過ごして、暑い夏に自宅で過ごすと身体がキツクなることも多くなると思うから、そのような時は、看護師さんが常駐している、この施設で過ごして体調を整える。そのための施設だからと説明をした。」
この時の父の気持ちを考えると、本当に切ない。
この看多機は、家族の面会もかなりゆるかった。
コロナ渦でもルールは設けていたが、面会を中止にしたりしていなかったらしい。
朝から晩まで父の個室で過ごすことも可能だったので、午前中、家事を済ませると施設へ行き、父の部屋で一緒にテレビを観て過ごしたりした。私はお昼は持参したものを、父は施設で用意してくれたものを一緒に食べて過ごした。そして子どもたちの帰宅に合わせて帰る。
夕方からは、母がオヤツと夕飯のおかずを持参して、父の部屋を訪れる。夕飯を食べる父と一緒に過ごして、落ち着いた頃に帰宅する。
母が午前中から日中。私が夕方。というように交代して過ごしたり。
父が施設にいる間は、そのように過ごした。
こんなに長時間も施設で一緒に過ごすなら、自宅に戻ってきて一緒に過ごしたほうが良かったかもしれないが、父が家にいれば、昼夜問わず家を気軽にあけることもできず、酸素の状態や、必要あればトイレの介助など、気が抜けない生活になる。食事は、栄養計算されたものが施設ででていたので、3食を母が一所懸命考えて作るのは本当に大変だったので、やはり施設と自宅の併用ができる看多機は、私たちのニーズに合っていた。