中原中也「湖上」
ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けましょう。
波はヒタヒタ打つでしょう、
風も少しはあるでしょう。
沖に出たらば暗いでしょう、
櫂(かい)から滴垂(したた)る水の音(ね)は
昵懇(ちか)しいものに聞こえましょう、
――あなたの言葉の杜切(とぎ)れ間を。
月は聴き耳立てるでしょう、
すこしは降りても来るでしょう、
われら接唇(くちづけ)する時に
月は頭上にあるでしょう。
あなたはなおも、語るでしょう、
よしないことや拗言(すねごと)や、
洩(も)らさず私は聴くでしょう、
――けれど漕(こ)ぐ手はやめないで。
ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けましょう、
波はヒタヒタ打つでしょう、
風も少しはあるでしょう。
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もともと好きだった中原中也。
子どもが生まれてなおの事、口ずさむようになりました。
中也の詩が自分の中に入ると、「何かを失う」というのは突発的で、破壊的で、壊滅的であることが脳の奥底に刻まれる
家族ができるまでは、それが「憧れ」だった。
だからこそ、今の「幸せ」を、体に染み込ませ、失はないように体内に留めておかなければ。
中也の詩は物悲しい月が似合う
今日も深夜の帰宅
月は頭上にあるでしょう。
君もいつか見上げるでしょう。
この月の湛えるみずみずしさは今の君にはわからないだろうけど
あの瑞々しさから、君は生まれてきたんだ
僕の月は、君は、すやすや寝息を立てて、命の重さを蓄えるでしょう。
時間が過ぎれば、夜泣きだ。
いいんだよ。
どんどん泣いて。君が生きていることを感じられるのだから。
お母さんはだいぶ参っているけど(笑)
月が沈めば
また、明日。