火の記憶 | 子宮筋腫をとったらば

子宮筋腫をとったらば

2015年12月に開腹で子宮の全摘をした、45歳・既婚・子ナシの備忘録。

夏のしっぽが終わったようで

ようやく涼しくなって、

窓を開けているのが

気持ちのいい季節になりました。

そんな時にちょうど去年の今頃

経験したことを思い出したのです。

 

その時はまだ横浜の崖の上の

マンションに住んでいました。

風の心地よい夜半。

エアコンなしの快適さを

しみじみありがたいと感じて、

「窓を開けて気持ちがいいの幸せだねぇ」

と夫と喜んでいたのに。

……なんだか変な匂いがするね?

五感に直接、

ものすごく図々しく訴えてくる不快な匂い。

原始的なものとケミカルなものとが

混ざったようなイヤな匂い。

せっかく気持ちいいのに

窓を閉めなきゃいけないの?

 

窓は南側の崖に面していて真下に見える駐車場

との高低差はマンションの5~6階分くらい。

たまたま窓の外の空間が

ぽっかり奇跡のように空いていて、

その周辺は高い建物がみっちり建っています。

窓を閉めようと思って立ち上がって、

なんとなく狭いベランダにひょいと出てみたら

とっても臭い。

そして駐車場の隣りのマンションから

煙が流れてきました。

え?火事?火事なの?

 

びっくりしている間にも

煙の勢いが激しくなります。

呆然としている私の隣りで

夫は119番をしていました。

火の出ているマンションの

名称を聞かれたようですが、

ふたりとも思い出せない、

あそこ内見に行ったのに。

でも流石に通報は複数あったようで、

今消防車が向かっていますとのことでした。

 

そうこうしていたら見えるのは

煙だけではなくなりました。

マンションと崖の間の通路から

炎が吹き出してきたのです。

それなりに距離はあるのに

はっきりと熱気が伝わってくる。

そしてイヤな臭いは更に強くなりました。

 

ええと、これはこのままここにいて

大丈夫なのかな?

万が一のために貴重品をざっとまとめて

小さい袋に入れて、外に出てもいいように

部屋着の上に羽織るものを出しました。

火が移る前にこの建物から出ることは簡単そう。

でも地上の火の勢いは増すばかり。

こんなに離れているのに顔に当たる

熱気を感じて、本当に怖いと思いました。

今この瞬間の状態で、

人海戦術でバケツリレーをしても

もう絶対に火は消せないと素人目にも分かる。

早く消防車と火消しのプロに来てほしい。

 

何もできないまま惨状を眺めているのは

長く感じたけれど、実際に消防車の到着までは

10分くらいだったのだと思います。

そのころにはわらわらと人も寄ってきていて

周辺は騒然。

でもやっぱり専門家の仕事はすごい。

辺りを整理しつつ大量の水を放出して、

あんなに止まるところを知らなかったような火の

勢いは徐々にでも確実に弱くなっていって、

鎮火まですぐだった気がします。

その間にももちろん消火に当たる人、

マンションの住人を避難させる人、

周辺の野次馬を整理する人と

いろいろな役割があって

粛々と仕事が行われている。

鎮火が念入りに確認されてからは

各部屋に聞き込み?に回ったり、

高いところまで届いている

壁面の煤に水をかけたり、

消防士さんたちのお仕事は

火を消すだけではないのですね。

 

多分消火活動そのものよりも

事後の処理の方が時間がかかって、

すべてが終わって

消防車が帰っていったのは深夜でした。

残ったのは大量の水に濡れた建物と地面と、

まだ残る強烈な匂い。

 

初めて火事というものを近々と目の当たりにした

私にとってはこれはとても怖い事象で、

ことを治めた消防士さんたちの働きは

命がけのように映りました。

実際あの炎の只中に突き進んでいくには

並々ではない気概がいるはず。

一方でこの件は火事としては

とても小さいものでした。

幸いなことに怪我をした人も出ず。

それですら自分の手には全く負えないと

一目見て分かる。

そして離れていてさえ、

早く助けてと心の底から思う。

消防士さんたちへの敬意の念が

より一層深まりました。

そしてその人たちを家で待つ家族の方たちにも。

 

この話には少し続きがあって、

後日判明した出火原因は放火でした。

刑務所から出所したばかりの人が

元に戻りたくて、被害の少なそうな

マンションの駐輪場に火を放ったとのこと。

これを聞いて

なんともやるせない気持ちになりました。

実際に建物の壁をなめるような炎を

見た身としては、消防車がトラブルで

遅れたりしたら大変な火災になって

もっとたくさんのものや人が

傷ついていたと想像してしまう。

被害が少なそうな、と配慮ができるのに

それでも火をつけずに済ませられなかった。

刑務所に戻される

ギリギリの重さの罪を狙ったのかな。

刑罰の軽重に詳しくないので

よく分からないけれど。

でも放火は絶対に絶対にダメ。

 

寒い季節に向かっての不安も

あったりしたのでしょうか。

これ以降私の中では秋の空気感は

消防車と放火をセットで思い出させるものに

なってしまいました。

ちょうど先日ニュース映像で火災の場面を

見た夫もこの時のことを話していたので、

同じような感覚が残っているのかも。

秋の夜長が誰にとっても平等に、

過不足なく衣食住の行き渡った

ただ気持ちのいいものであればいいのに。

 


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