旅の話の続きです。
グロスターに着いたのは日が暮れ始めたころ。
フラットの鍵を受け取り部屋に落ち着いたらまずはママに電話。
彼女が生まれ故郷に引っ越したので初めてこの町に来ました。
イギリスで右も左もわからないところに来たのは20年ぶりくらい?
さっと食事をしてから翌朝用の買い物をしなきゃとうろうろしていたら、
後ろから肩をトントンとたたかれました。
うん?ここに知り合いはいないけど誰?って思ったらおねえちゃーん!
会えて嬉しい!わざわざカーディフから来てくれたの?
「うん、ママと一緒にそこのお店で待ち伏せしてたんだよ。
髪型が全然違うから見落とすところだったけど
『カエルのバッグ!絶対にかのこ、間違いない』ってママが(笑)」。
私の愛しいカエル、目印としてもとても有能。
そのお店にすっ飛んでいくといつもの笑顔が待っていてくれました。
もうじき80歳になるママは杖が必要になっていたけれど元気で、
会えば2年ぶりでも不思議と昨日の続きのような気分になる。
顔を見て抱きしめられるとまるで自分が小さい子供になったようで、
絶対に大丈夫という訳の分からない安心感に包まれます。
彼女と今は亡き大好きなパパは
本当に私たちのイギリスのおかあさんとおとうさん。
彼らの長女である娘さんはすごく優しいおねえちゃん。
グロスターは小さな歴史のある町でした。
運河には今はナローボートがたくさん係留されていて、
その周辺には古い倉庫が立ち並んでいます。
内側はキレイにリノベーションされていてお店や住居になっている。
その中のひとつを借りて滞在しました。
倉庫だった名残で変な場所に太い柱があったり壁が赤レンガむき出しだったり、今までに借りた物件とはガラッと違うのも楽しい。
旧市街のランドマークはグロスター大聖堂。
普段教会にあまり惹かれない私なのにここは大好きになりました。
立派だけれど仰々しくなくてどこか鄙びた趣きがある。
前身が修道院だったせいなのかな?
きちんと土地のコミュニティに結びついていて教会としてちゃんと現役。
夕方のミサに行ってみたら教会初の女性主教さんのお説教は優しく、
大迫力のパイプオルガンと聖歌隊の歌声がとてもステキでした。
町の観光スポットは他にはこれといってなくて、
宿のそばには大きくて新しいショッピングモールがあるくらい。
外国人観光客はほとんど見かけず、近隣のローカルの人たちが
休日に買い物や食事をして日帰りするところみたいです。
宿探しをしたときに「妙に物件数が少ないな?」と思ったけれど、納得。
平日はとても静かでおっとりしているので、
ゆっくりのんびり過ごしたい私たちにはうってつけでした。
ところ変われど、やることはいつも一緒。
イギリスの滞在は旅行というよりは暮らすに近いです。
生活の合間に「ママに会う」という最高のイベントが挟まる感じ。
でもママが疲れないようにと思っているのに、ふたりだけで出かけると
電話がかかってきてバスで追いかけてきて合流してくれたり。
おうちで懐かしいご飯を振舞ってくれたり、宿に来てくれてお茶したり。
いくら会っても話は尽きなくて結局顔を合わせない日はなかったかも?
20年以上のお付き合いになるんだねとお互いに驚きました。
途中で電車で1時間のカーディフまで行ってみました。
おねえちゃんが仕事を午前で切り上げて街を案内してくれて、
おうちにもお邪魔して彼女のご主人と娘ちゃんにも嬉しい再会。
娘ちゃん!すっかりキレイなお嬢さんになって!
ちょい悪オトコとお付き合い中みたいでおばちゃんは心配です。
帰りはおねえちゃんが車に乗せてグロスターまで戻ってくれて、
翌日コッツウォルズをママと4人でドライブ&散策。
すごく久しぶりに来たら観光客がたくさんでびっくり!
確かにステキなところだけれど、
ここまで人が多いと風情も薄れるというか。
でもみんなで美味しいランチを川沿いのお庭で食べて、
大討論の末にデザートをシェアして、土産物屋さんを冷かして、
ちょっと冷たい空気の中を笑いながら歩いて、いい時間でした。
最後の晩はママのおうちで私とおねえちゃんで料理をしてお食事。
夜も更けて「じゃあね」と言うのがものすごく辛かったです。
考えたくもないけれど、ママも高齢。
これが最後になっても不思議ではないと思うと、帰りたくない。
「まさかあなたたちがここまで会いに来てくれるとは思わなかった」と
ママ本人にもおねえちゃんにも言われました。
今までのイギリスの旅は住んでいた村ばかりに滞在していた私たち。
その場所に思い入れがありすぎてよそに行く気になれなかった。
休暇で遊びに行って最長で6週間村から一歩も出なかったことが
あるくらい、私も夫もその村のことが大好きです。
「一平とかのこはあの村に属していると思っていたから」。
私たち自身もあの村に行かないイギリスの旅は
ありえないと思っていたほど。
稀に日本でwebの旅行記などで村の景色が目に入ると、
心臓がギュッと締め付けられるような気持ちになります。
村のことなら隅から隅まで手に取るように分かっていて、
見ればいつでも、今だってすぐにでも帰りたいところ。
特定の場所にこんな気持ちになるのはここだけです。
実際にロンドン滞在中に日帰り里帰りをしようか迷っていました。
でも多分、ひとりで行ったら感極まって泣いてしまうか、
村に根っこが生えて帰って来られなくなってしまう。
そんな気持ちで後ろ髪をひかれつつ諦めました。
でもグロスターでママに会ってそれは違うと気が付きました。
私たちの帰る場所はママのいるところ。
イギリスは私たちにとって彼女に会うための場所になっていました。
きっと次回もここへ来て、愛する村は当分お預け。
でもそれでいい、それがはっきり分かった今回の旅でした。
いつも通り会えない時間の分もうんと抱きしめてもらって、
心配性のママが別れ際に言うセリフもいつもと同じ、
「自宅に無事着いたら電話して声を聞かせてね」。
飛行機の中で読んでとカードを渡されるのもいつもと一緒。
こんなに大好きな人がいて、幸せなことだなと思います。