ウンスがタムドクとスジニに天穴について説明をしているその内容に、チェ・ヨンはウンスの辛く苦しかったであろう時間を再度実感することとなった。
ウンスの口から出るその苦労に、今この時、最愛なる女(ひと)が自らの意思で自分のもとに戻りこの場に居てくれることの幸福に感謝する。
この方は、過去の時間をどんなにか心細く過ごしたか。
どれほどの涙を流し眠ったのか。
おれや見知った者も居らぬ地で・・・
時代で・・・
それでも...
自らの家族の居る時代ではなく我の居るこの時代に帰ってきてくれたこと。
それは、どんなにも強い想いを我に捧げられているか。
チェ・ヨンはウンスの気持ちを改めて感じ思い知る。
求める自分と求めてくれる其方。
奇跡の起こす出逢い。
イムジャがたとえ医仙でなくとも、我は其方を愛おしい。
ただ、医仙であることで出逢えたのは紛れもない事実。
タムドクとスジニはふたりで天穴を通り行くが。
元の時代に戻れるのか?
仲間のもとに帰ることはできるのか?
それは計り知れない不安もあるだろう。
しかしこの方々は決して独りではない。
愛する者が傍に居てふたりで進み行くのだ。
それがどれほど心強く幸福な事か。
明日送り出すふたりの為に、イムジャは調べたことを書き写した紙や小物、この先なるべく困らない様に、色んなものを風呂敷に包み用意していた。
あれもこれもと考えだしてはきりがない。
ある程度包み終わった時を見計らい、チェ・ヨンはウンスの腕を取り引き抱き寄せる。
「チェ・ヨン?」
「もう、それくらいで宜しいでしょう」
それ以上、色々な物を包み持たせても、天穴で元に戻れるまでいつになるのか誰にも分からぬもの。
自身で必要なものを選び進むことが、ふたりで居ることが大事なのだ。
それよりも...
おれはイムジャがおれの下に帰ってきてくださったことが、今ふたりで在ることがこのうえなく幸福であることを腕にしたイムジャの温盛が教えてくれる。
おれは貴方を手放せぬほど狂おしい恋慕が胸奥にいつも在る。
腕を引き寄せたことでチェ・ヨンの胸に落ちた身体を抱きその柔らかな愛おしい感触に眸を閉じる。
我がの恋慕を何なりと受け止める其方は、きっとおれよりも強い。
だからおれも強く在れる。
ふたりであれば―――――
「チェ・ヨン」
イムジャの呼ぶ声に抱く腕の力を強める。
「あなたと居られることが、わたし本当に幸せよ」
イムジャの吐息のような言葉に、眸の奥が暖かくなる。
「おれもです。だから、あの方たちも大丈夫」
ふたりなら乗り越えられるだろう。
柔らかな温もりが腕の中、すりっと小さき頭が摺り寄るように動き、頷いたことが分かる。
チェ・ヨンは其処に在った掛物を引き寄せながら、ウンスを巻き込むように抱える。
「チェ・ヨン?」
見上げるウンスを寝床へと降ろし、自らもその隣へと滑り込み身を引き寄せ。
「眠りましょう。明日に備えて...」
うん.....
喉仏に当たるイムジャの吐息を感じながら眸を閉じた。
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