シンイー信義ー の小部屋

シンイー信義ー の小部屋

イ・ミンホ主演ドラマ「シンイー信義ー」中心の2次小説サイト
ペ・ヨンジュン主演ドラマ「太王四神記」も書き出しました

このサイトはシンイの隊長(テジャン)にはまった管理人が
とりあえず好き勝手に書いている二次小説サイトでございます。
なにぶん素人が書くものですのであまり突っ込まず読んでやってください
苦情等は受け付けかねますのでよろしくお願いします
管理人: kei


タイトルリスト
本篇として最終回後のヨン×ウンスの話です。なので登場人物や設定は変わることなく進めていきます。
恋バナ(女子の語らい)
女子会の恋バナからの発展話。恋バナ後にはご注意です。
最終回後の小話ですが、設定はそれぞれ変わります。一緒に暮らしていたり、別々に暮らしていたり。
シンイー信義ー(短篇)
シンイー信義ー(本編)とは別物として考えてくださいね。
シンイー信義ー(ドラマ内小話)
ドラマ内に起こった出来事や、その間にあったであろう出来事を私なりの解釈を加え描いています。
ショート・ショート
ギャグテイスト満載。かなり短め小話になります。

アメンバー申請について
それ以後はアメンバー限定公開になります。ご了承ください。

*R指定のためのアメンバー限定ではありませんよー(笑)

シンイが好きでテジャン(隊長)達が大好きな方でしたら誰でもOK。敷居は低いです(爆)

テジャン(隊長)達への愛をメッセージでお聞かせください。だけど、アメンバー申請時のメッセージでは返事は返せません(ごめんなさい)
敷居は低いですが、余程のことがあれば拒否もありえますのでご了承を...

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かなり慌ただしい足音が扉の向こうから聞こえて来る。

と同時に自分の名を呼ぶ声も聞こえてくる。

 

「チェッ、チェッチェ、チェ・ヨ―――ンっ」

 

バンッと道場の扉が乱暴に開かれた。

そして―――

 

「ねっ、ねぇ、チェ・ヨン。ヨン、こっこれ―――」

 

兵士に手ほどきをしていたところに、言葉と同時に飛び混んできたウンス。

走ってきたため息を切らし、いつもはまろやかに白い肌が土で黒く汚れている。

手には臙脂色の布に包まれた長い物を手に大事そうに抱え持っていた。

 

急に飛び込んできた医仙に、稽古を受けていた村の兵士は驚き動きを止める。

チェ・ヨンも振り上げた木刀を構えたまま声の方に振り返った。

 

「イムジャ?」

「ごめんなさい。練習の邪魔して、でも急用なのよ」

 

許してね。と兵士へ手を合わせ駆け、チェ・ヨンの前に飛びつくように立ち。

 

「走ってはならぬと云っておろう」

 

乱雑なウンスの動きに慌ててその身体を受け止め、背後にはイムジャに付添いいたテマンが申し訳なさそうに頭を下げていた。

こうも興奮したイムジャを止められる者はそう居ない。

仕方ないだろう。

そのためテマンを責めるのは間違いであることは知っており、チェ・ヨンはテマンに向かい小さく頷き腕の中のウンスを見た。

 

「チェ・ヨン、これよ、これを見て頂戴」

 

チェ・ヨンの心配には気にも留めず、手にした赤い布に包まれたものを早く見てとばかりに興奮し押し付けられる。

そのウンスの様子に、何事か?と思いその物を確認するため、手にした物の紐を解き外し布を開けると...

 

「これは――」

 

「そうよね?合ってるわよね。あのひと。あの人の物よね?」

 

違う?合ってるでしょう?間違いないでしょう。

 

イムジャの眸がワクワクとして訴えかけてくる。

そのウンスにヨンはその包みの中身を手に持ち良く見て顔を上げる。

 

「ええ、おれもあの方の物だと思います」

 

でしょう!

 

「やっぱり!あのタムドクさんの物よね。そしてこの矢はきっとスジニさんのもの」

 

包まれていたのは、ずっしりと重く、見事な彫刻が施された長い剣と、1本の矢であった。

そのどちらも見覚えがあるものであった。

チェ・ヨンはその剣を確認するように握り剣身を鞘から抜き、目の前にかざし、剣身に文字が刻まれていることに気付く。

その在る文字は...

 

――高句麗第19代王 広開土王

 

その文字にチェ・ヨンは眉をピクリと上げてウンスへと振り返る。

 

「――イムジャ、もしや知っておいでだったか」

 

チェ・ヨンが云わんとすることにウンスは曖昧に頷きを返した。

 

「知ってた、というか、気付いたというか...わたしの居た時代で語り継がれた人物の名前だったし――」

 

でも、まぁそれはチェ・ヨン、貴方もなんだけどね。

ウンスは何とも言えない顔になり。

 

そして、かく言うわたしもチェ・ヨンの妻としては歴史上の人物になる訳で・・・

って思うと、何とも云えず。

そんな思いを払う様にフルッと頭を振りチェ・ヨンへと振り返って。

 

「それとなのよ、布に包まれて、こんな手紙もあったの」

 

ウンスは巻物をチェ・ヨンに手渡した。

 

「タムドクとスジニって言葉がなんとか読み取れるんだけど、後は達筆すぎてわたしには難しくて」

 

やっぱリ漢字はまだまだ苦手なのよ。

ウンスは恥ずかし気に頬を染め首をすく肩を上げる。

そんな仕草をするウンスの様相に、チェ・ヨンの頬がかすかに緩み甘い顔を見せた。

 

ざわざわ――

 

そのテホグン(大護軍)の様子に、さっきまで手ほどきを受けていた兵士たち。

この数年、年に数回この地にいらっしゃったときに手解きを受けるなか、仲睦まじい姿をよく見かけてはいたが、テホングン(大護軍)の甘い顔は間近でそうは見られない。

その中でも、新米兵士から少しざわつきが起こる。

 

ふたりが夫婦であることは知っているが、鬼神と云われるほどのテホグン(大護軍)が、自分たちには滅多に見せない表情を見て。

端正であるが冷たい表情がたおやかに柔らかく解ける様は、何とも云えない表情で...

 

テホグン(大護軍)はそんな新米兵の様子に構うことなく、ねえ、これ読んで頂戴とばかりに見上げる。

そのウンスの汚れた頬を親指でグイッと汚れを拭い。

その事で自身の頬が汚れていることに教えられたウンスが、自らの着物の袖でゴシゴシとチェ・ヨンが拭った場所を擦る。

この国の国宝である医仙の仕草や表情が、何とも云えず可愛らしい。

 

今度は医仙であるウンスに対し兵士の視線が集まり...

先ほどの自身に対する視線には反応を示さなかったテホグン(大護軍)が、ピクリと力強い眉を跳ねさせ強い気が発せられ、テホグン(大護軍)を知る中堅兵士は、不穏な空気に気付きこれは不味いと慌てて新米兵を引き連れ道場を出ていく。

 

そんなチェ・ヨンの牽制をウンスは気付くことなく、手にした手紙に興奮して伝えてくる。

 

「でもね、あのね。タムドク、スジニって書いていることは確かだから、あの二人からの手紙ってことで間違いないのよ」

 

着物で拭ったためと興奮とで頬は赤く火照り、眸はキラキラと嬉しそうに瞬き子供のようだ。

 

チェ・ヨンは手にしていた剣を傍の机に置き、早く読んでとばかりにウンスから手渡された手紙である巻物を広げた。

 

イムジャの云うように、素晴らしく達筆な文字が並び、確かにタムドクとスジニとの文字もあった。

 

内容は、無事自身の時代に戻ることができた報告。

そしてその後、無事女児を出産したこと。

自分たちは元気に過ごせていること。

感謝の気持ちが記せられており。

親愛なる知人に送る様な内容の文章で、壮絶な歴史などは書かれることは一切なく、心からの感謝の言葉が並べられていた。

 

ウンスにその内容を教えると...

 

「そう、良かった元気で帰ることが出来て、子供も無事産まれて。本当に良かった」

 

ホッとした声色と、安心した言葉を述べ、自らの腹部に手を当てる。

 

あれから自らの身体にも、チェ・ヨンとの子供が宿っていた。

だから、余計にスジニが子を無事出産したことが嬉しく思え安心した。

 

「この二人にも、わたし達の子のことを知らせたいけど・・・」

 

それは無理ね。

だって、彼らは過去の人だから―――

 

手紙に書かれた年号は、遥か前の年号であり、それにしてもこの手紙が古ぼけていないこと。

新しいとは云えないが、この年数を過ごしてきたとは思えないほどの状態だ。

一緒に埋められた剣や矢と包んだ布も、汚れてはいたが素晴らしく保存状態が良いのは、何かチェ・ヨンの持つ力の様なものがあの時代にもあったのか?

まあ、そんなことはあまり興味はないが...

 

でも、ウンスはこの布を見つめ胸が熱く高鳴った。

もし、この布で包めば、わたしの手紙もわたしの居た時代に綺麗な状態で手紙を残すことが出来るのかもしれない。

ウンスはこの布は彼らからのプレゼントの様に思い。

 

「この布、わたしがもらって良いかしら?」

 

チェ・ヨンを見上げ臙脂の布を握りしめた。

 

もしかして、歴史上に重要なものだから、わたしが貰っちゃダメ?

 

イムジャの心配げな顔に、安心せよとばかりにポンポンとその頭を撫でる。

 

「この手紙はイムジャとおれに当てたもの。手紙の内容から見ても」

 

だから問題ないと頷き、布を持ったイムジャの手を引き寄せ、背後から被さる様に抱き寄せる。

首筋に顔を埋め少しふくらみの感じる腹部に慈しむように掌を置いた。

 

ウンスは「ありがとう」とつぶやきチェ・ヨンのその手に掌を重ね...

 

お父さん、お母さん。

この人と、この子と一緒に、わたし本当に幸せに生きているわ。

だから、だからどうか幸せにいて下さいね。

 

ウンスは首筋に感じるチェ・ヨンの肉厚な唇を求めるため、顔を傾け。

愛おしい人の唇にちゅっと音を立て口づけた。

 

「幸せにしてね」

 

口を付けたままつぶやき、ふふッと笑う。

 

その唇を、チェ・ヨンが下唇を食むように舐め。

 

「もちろんです」

 

甘く言葉を吹き込んだ。

 

 

 

 

おしまい

 

 


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「おはよう」

 

村人に声をかけながら歩く。

今日は気持ちの良い天気だ。

 

ウンスは、暖かい日差しの中、黄色い小菊が咲き誇る大樹を通り過ぎ「天穴」へと足を運んでいた。

その天穴はウンスにとってはとても大事な場所で、辛い記憶もあるが心休まる場所でもあった。

 

今回もこの天穴に来たついでに、滞在の間は医院を手伝い近くの村人を診るのが日課。

その間は、この地の患者を診てくださっていた派遣の医員の方には、少しでも休んでもらいリフレッシュしてもらうのがも常。

そしてこの土地へは、必ずチェ・ヨンも着いてきてはこの付近の兵士に対し手ほどきや民家の補修を手伝うのも常。

 

チェ・ヨンが来るならやっぱり私兵であるテマンも居て、ウンスが行くならユニもこの地に来て...

このメンバーで来ることが毎年の常であった。

 

 

ウンスは天穴の傍にある腰掛けるのに丁度良い岩の前に立ち止まり、この場に来るまでに摘んだ小菊を岩の上に置く。

父と母への想いを胸に眸を閉じてさわやかな風を感じる一時。

眸を開け心地よい気候を感じながら景観を見渡すと、ふと視線が引き寄せられる場所があった。

少し大きな石が積み重なった場所から見える臙脂色。

 

何かしら?

 

少し汚れくすんでいるが、綺麗な刺繍が施された臙脂色の布が見えた。

 

前に来た時、こんな物はなかったような?

 

ウンスはそこに近づき、惹かれるように布の切れ端を確認するため石を除け掘り起こしてく。

大きな石から小さな石まで、少しずつ取り除いていくと、岩と地面の隙間に挿す様に在る長い物をこの臙脂の布で包んでいるようで。

両手で持ち力を込めて引き抜いた。

 

それはかなり長い物で手にズシりとした重さがあった。

 

知っているものの様な感触に首をかしげる。

 

包まれていた布は、少し古くなり汚れてはいたが、雨風に濡れていたはずなのに痛みは少ないように感じる。

手で砂を払うと、刺繍された布はかなり高貴なもののようだ。

その布を縛った組み紐も紫に金糸が混じった高貴な物で、ゆっくりと丁寧な仕草で解いていくと...

 

「これって・・・」

 

 

 


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ウンスがタムドクとスジニに天穴について説明をしているその内容に、チェ・ヨンはウンスの辛く苦しかったであろう時間を再度実感することとなった。

ウンスの口から出るその苦労に、今この時、最愛なる女(ひと)が自らの意思で自分のもとに戻りこの場に居てくれることの幸福に感謝する。

 

この方は、過去の時間をどんなにか心細く過ごしたか。

どれほどの涙を流し眠ったのか。

おれや見知った者も居らぬ地で・・・

時代で・・・

 

それでも...

自らの家族の居る時代ではなく我の居るこの時代に帰ってきてくれたこと。

それは、どんなにも強い想いを我に捧げられているか。

チェ・ヨンはウンスの気持ちを改めて感じ思い知る。

 

求める自分と求めてくれる其方。

奇跡の起こす出逢い。

イムジャがたとえ医仙でなくとも、我は其方を愛おしい。

ただ、医仙であることで出逢えたのは紛れもない事実。

 

タムドクとスジニはふたりで天穴を通り行くが。

元の時代に戻れるのか?

仲間のもとに帰ることはできるのか?

それは計り知れない不安もあるだろう。

しかしこの方々は決して独りではない。

愛する者が傍に居てふたりで進み行くのだ。

それがどれほど心強く幸福な事か。

 

明日送り出すふたりの為に、イムジャは調べたことを書き写した紙や小物、この先なるべく困らない様に、色んなものを風呂敷に包み用意していた。

あれもこれもと考えだしてはきりがない。

ある程度包み終わった時を見計らい、チェ・ヨンはウンスの腕を取り引き抱き寄せる。

 

「チェ・ヨン?」

 

「もう、それくらいで宜しいでしょう」

 

それ以上、色々な物を包み持たせても、天穴で元に戻れるまでいつになるのか誰にも分からぬもの。

自身で必要なものを選び進むことが、ふたりで居ることが大事なのだ。

 

それよりも...

おれはイムジャがおれの下に帰ってきてくださったことが、今ふたりで在ることがこのうえなく幸福であることを腕にしたイムジャの温盛が教えてくれる。

おれは貴方を手放せぬほど狂おしい恋慕が胸奥にいつも在る。

腕を引き寄せたことでチェ・ヨンの胸に落ちた身体を抱きその柔らかな愛おしい感触に眸を閉じる。

 

我がの恋慕を何なりと受け止める其方は、きっとおれよりも強い。

だからおれも強く在れる。

 

ふたりであれば―――――

 

「チェ・ヨン」

 

イムジャの呼ぶ声に抱く腕の力を強める。

 

「あなたと居られることが、わたし本当に幸せよ」

 

イムジャの吐息のような言葉に、眸の奥が暖かくなる。

 

「おれもです。だから、あの方たちも大丈夫」

 

ふたりなら乗り越えられるだろう。

 

柔らかな温もりが腕の中、すりっと小さき頭が摺り寄るように動き、頷いたことが分かる。

チェ・ヨンは其処に在った掛物を引き寄せながら、ウンスを巻き込むように抱える。

 

「チェ・ヨン?」

 

見上げるウンスを寝床へと降ろし、自らもその隣へと滑り込み身を引き寄せ。

 

「眠りましょう。明日に備えて...」

 

うん.....

喉仏に当たるイムジャの吐息を感じながら眸を閉じた。

 

 

 

 

 


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「そうそう、それとなんだけど」

 

ウンスのよく通る声で、大事な話なんですと云い、さっきまでとは違い真剣な顔つきで話し出した。

 

「あなた達が通ってきたあの洞窟なんですが、その穴は天穴っていうところなんです。わたしはその場所について研究していて、最近ようやくその天穴が開く日がかなりの確率で予測できるようになってきまして――」

 

タムドクもスジニも、自分たちの居の今在るこの場所について、そして自分達の帰るべき場所への事についての話であることを即座に理解し、ウンスの話に耳を傾けた。

ウンスはそんなふたりに真摯に告げる。

 

「その天穴が開くと思われるのが、じつは明日ではないかとわたしは思っています」

 

タムドクとスジニが通ってきた光の渦。

それが天穴と云うものらしい。

この世界に来て、似ているが色々なものがタムドクが居た世界より発展していることには気づいていた。

チェ・ヨンがいつも持っている鬼剣と云われる刀もそう。

我らが命を守る鍛冶屋パソンの作り上げた剣より出来栄えは数段上であり、素材も違うようにも見える。

他の兵士が持つ剣であってもそうだ。

どうやらここは我らが済む世界とはどこか近くて遠い異なる世界なのだと理解した。

そしてそのことをこの医仙と尊ばれる方が、どういう訳か自分達の正体も知っているような感覚をタムドクは感じていた。

 

スジニのとの会話や、一挙一動を見る視線。

他の者から感じない視線のゆくへは、違う次元で見られていると感じるが・・・

まあ危険はあるまいな...

タムドクは問題ないと把握し捨て置くこととする。

 

ここは色々興味深いことがある世界だ。

しかし、自分たちがここで存在し事を成すことがこの先良いことになるのか、それはあまり良い予感はしないと感じており、だからタムドクは自身の行動を制限していた。

しかし、己の好奇心をこうも制することができるようになったとは、タムドクは自分も親となり成長してようだと自分に変な感心をし、その考えに微妙に頬が緩んだ。

そしてそれはスジニも一緒なのだが。

このことが更に自身の頬を緩ませる。

タムドクは自分達の今までの生活を想い出す。

 

いまや酒やバクチを好んでいたスジニの姿はない。

それでも少し前まで酒は飲んでいたが、この世界に来る少し前からスジニは酒に手は付けていなかった。

やはり子がいることを感じていたのだろう。

無意識にか気を付けていたらしい。

ククッと笑いながらスジニとのことに思いを馳せていた時。

 

「あのータムドクさん」

 

しばし時を忘れていたようだ。

 

「すいません」

 

タムドクは素直に謝りウンスを見た。

 

「――それでなんですけど、多分、この期を逃すと1年は天穴が開くことは無いです。だから明日、天穴を通ることが最善だと思います」

 

ウンスに云われるまでもなく、もうそろそろこの地を立たねばと思っていた。

ここは居心地も良いが自分達の場所ではない。

ただ、身重のスジニがいる。

まだ、妊娠の症状は軽そうだが身体の傷も心配であった。

しかし、そうも云っていられないのも事実。

自分達を待ち探しているだろう仲間の事を考えると、皆は心配させたことをえらく怒るであろうが...しかしスジニの状態を伝えると皆それ以上に喜ぶことも目に見えている。

機嫌良く口角を上げるタムドクはウンスへと告げた。

 

「では、その天穴とやらが開くのであれば、わたし達は明日通るしかないですね」

 

「ですよね、それが良いとは思うんですが・・・」

 

機嫌良いタムドクとは裏腹にウンスが綺麗な眉を寄せ言葉を止める。

言葉の歯切れが悪い。

 

「ウンス殿?」

 

「えーっと、それがですねぇ、言いにくいことが一つ」

 

ウンスは姿勢を正し話す。

 

「このあなた達が通った天穴ってやつは何というかちょっと厄介なものでね。これってすごーく理不尽なんだけど、同じ場所を通ったからって必ずまた同じ場所や同じ時に帰れるかってのが分からないんです」

 

「それって、先生。わたし達戻れないってことですか?」

 

スジニは勢い良く立ち上がる。

 

「戻れないって決めつけられないけど、まあ、そういうこともあるってことです」

 

立ち上がったスジニに自身を落ち着けとばかりにタムドクが人差し指で机をトントンと叩く。

それはタムドクがいつもするここに座れとの合図だ。

スジニは素直に座り直しウンスの話を聞く。

 

「実はですねぇ――」

 

ウンスは自分のこれまでの経緯を説明した。

自分もこの穴を通って未来からやって来たこと。

その後再度通った時は同じ時に戻れたこと。

だけど、その後は違う時代に辿りつき、この時代に戻るのに何度も天穴を通り数年かかってしまったことを...

 

タムドクはウンスの説明を黙って聞いていた。

やはり自分が考えたように、自分達は違う時代に来ていたのだ。

そしてウンスは自分達と同じ時の彷徨い人であり、必死に自身の望み選んだ場所に戻ってきたのだろうことが知れた。

 

「そんな―――困ります。わたし達は必ず帰らないとダメなんです。帰れないなんてどうすれば―――」

 

スジニは云っても仕方がないと分かっていてもスジニにどうすればと問い、タムドクの穏やかだが芯のしっかりした声に制される。

 

「シィッッ」

 

それを云っても仕方なかろう。

 

ウンスに向き直り穏やかな声で問う。

 

「それでウンス殿、もし我々が天穴を通って戻れないことになった場合どうすれば良いのか?」

 

この方は、自分も何度か天穴を通ったと云った。

だけど戻ってこられた方でもある。

 

「そうね、戻れないことがあったら、そうしたらまた、天穴が開くのを待って通るしかありません」

 

ウンスは困ったように眉をおとし、タムドクを見上げた。

 

「あなた達の思う場所や時に戻れるまで、天穴を開くのを待ちまた通る。その繰り返しなんです」

 

「・・・ふむ」

 

タムドクはウンスの言葉に黙り考え込んだ。

策士である王だが、こればかりはどうにもならない。

 

「だけど、わたしとの時と違うことが一つ」

 

ウンスは懐から紙を取り出し机に広げ見せる。

 

「それは天穴が開く時期がある程度高い確率で分かること。わたしの時はまだこの時期があやふやにしか分からなかったけど、今は分かります。そしてその時期を、念のため数百年分この紙に書き出しました。天穴が開いてからどの時期に次ぎ開くか書いています。天穴は太陽の―――」

 

ウンスはその要点をタムドクに伝える。

タムドクは独特な話をきちんと理解しウンスの話を飲み込んでいく。

スジニにはさっぱりで、紙に書いた時期を確認するが理解は出来ない。

 

もしかして戻れないかもしれない。

そう聞いても想像以上に落ち着いていられるのはやっぱり王と一緒だからだ。

この方と一緒なら何処でだって生きていける。

それだけで自分は強くなれる。

 

それはタムドクも一緒で、ウンスから話を聞き終えスジニの手に触れ包んだ。

 

大丈夫だ。

 

そう云っている王の眸はいつもの偉大な王でスジニが愛してやまない王のもので、それだけで自分は安心できる自分に貌が熱くなるのを感じる。

 

こんな時にも自分は王に逆上せてる。

 

更に赤くなりそうな自分の思考を追いやるように、スジニはフルっと頭を振り気持ちを切り替えて、今はウンスから伝えられることを聞き逃さないように忘れないようにと耳を傾け聞いた。

 

 

 


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「はい、きれいに治ったわね。ほーんと我ながら良い腕だわ」

 

スジニの縫合した矢傷を確認し、さすが私とばかりに有頂天な声で自身をほめるウンス。

本人が云うように、スジニの身体に在るどの傷よりも綺麗な傷跡であることは明確で、ウンスの腕前が良いことが伺える。

 

スジニは、自分の腕前をおちゃらけて云うことはあっても、鼻に掛けることはない。

目の前で屈託なく笑うウンスは、尊敬と敬意、そして親しみを感じる。

 

姉がキハが生きていればこんな風に笑い過ごしたりしたかもしれない未来をふと考える。

キハのことを思い出すと、胸の奥がキリリと痛む。

美しく聡明な見かけに強い意志を持った人だった。

小さいころ、偶然姉であるキハを街で見かけた。

その時はどうしてこんなに心に残るんだろうって思った。

その後に王を挟んで出会い、お互いのすれ違いや周りの画策によって王と姉は分かれることとなり、キハはスジニにとって敵となった。

そして運命は更に過酷だった。

敵となったキハは同じ腹を分けた姉とスジニは知ることとなる。

王の子を宿し今にも産み落とさんとしていた時にわたし達は運命に導かれるかのように再会した。

自分の中心に在る王を慕い、自分こそが王に仇成す黒朱雀であるかもしれない。

黒朱雀となり世界を、王を自分が滅ぼすなら――自分はあれだけ自身を捧げた王の傍には居られない。

そんな思いを胸に、スジニは覚悟を決め愛しい王の傍を離れる。

あの人を滅ぼすのが自分であるなら、そんな自分など要らないとと思ったとき、必然の様に姉とその赤子アジクとの出会い。

産まれたての赤子アジクを手にし、自分が護らねばと強く思った。

この子を、姉の想いを――。

姉が王と自身の子供を産み落としたとき、姉の想いも理解したように思う。

先王を殺したとか、裏切ったとか、どうでも良い訳じゃないけど、姉の想いは本物であるということがスジニには痛いほど理解できた。

 

神器の生まれ変わりであるふたり。

わたし達がただの姉妹として育っていたら、どんな風に接しあえたのだろうか?

ほんの一時、この人が姉と理解しただけでも心が締め付けられるように恋しく思えたのに――・・・

 

もう今は逢えない姉に思いを馳せる。

わたし達には辛い思い出も多い。

だけど今、それを懐かしく思い出せる気持ちもあることに驚きと嬉しさも混じる。

 

スジニの消毒を終えたウンスは、腹部も診察し「順調順調」と頷き診察を終え後片付けをしている。

片付けが終わると、んーっと伸びをしスジニと診察室から出てタムドクとチェ・ヨンのいる隣の部屋へと移動した。

 

 

 

 

 

今日の診察をすべて終え、4人でお茶を飲みながらほっこりとしふたりの全快を喜びあっていた。

特に嬉しそうなのはウンスである。

 

「タムドクさんやスジニさんの傷も良くなったし、スジニさんのお腹のお子さんも万事順調で云う事なし」

 

患者の元気は医者の糧なのと歌うように告げるウンス。

そんなに偉い先生とは程遠い物腰で、でも患者に真摯に対する彼女は正しく神医と呼ばれるほどの医者である。

 

そんな先生が居なきゃ、この知らない土地でスジニの子供は今頃どうなっていたか。

ただ矢傷を負っただけで良かったと思う。

後で王に云われたこと。

 

矢に毒など塗られていなくて良かった。

 

王が云った言葉にスジニはゾクリとした。

毒など受けていれば、子も自分も助かったか分からない。

自分だけなら良い。

戦に王に着いて行くということは、こんな事態もあり得る。

それは今までも理解と覚悟をしていた。

だからタムドクに命じられていたことがある。

 

怪我をするな。

死ぬのも許さない。

必ず生きろ。

と...

無茶を云われていると思う。

でも、それを受け入れられないならタムドクはスジニを戦場に連れてはいけないと云った。

スジニは太王の為に生きるこそが己の道。

もし自分が王の妨げになるのなら、いつ消えても構わないと思っていた。

でも王は死ぬのを許さないと云う。

辛さも含んだ真摯な目で命ぜられ、スジニは太王のその言葉に「分かりました」と頷いた。

 

おまえに何かあると云うことは誰かが責任を問われるということ。

 

王は云われた。

 

その意味はそのまま受け入れている。

受け入れてはいたが、それでも何かあればやはり自分は真っ先に王へと身を投げ出し護るのだろう、と心の奥底で思っていた。

それは仕方のないことだって思いこんでいた。

だからその時あまり理解していなかったように思う。

 

今回スジニが王を庇い矢傷を負ったその時、王の怒りは激しく燃え上がり、鬼神のごとく剣を振りあげその敵を切り裂いた。

 

王が寵愛を捧げる者に傷を負わせるということは、どんな理由があろうと容赦はしない。

そう云うことなのだ。

スジニが怪我を負うことは、誰かがその責務を問われ罰せられることとなるのだろう。

 

そんなことも知らず、自分は王の言葉に「はい」と答えていたことに腹が立った。

 

今回受けたこの矢傷、スジニはいつもより動きが鈍かった。

自身の身体の微妙な変化に気が削がれていたのかもしれない。

子が宿ったとの事ならば、尚更気を付けるべきであるのに――

スジニは自分の浅はかさを新ためて理解する。

 

昨日、寝所で再度スジニに王は告げた。

 

スジニ。

おれはもう一度おまえに命じる。

 

その身を傷つけるな。

死ぬのも許さない。

第一に自分を優先し、必ず生きろ。

 

新たに言葉を付け加えられ、やっぱりスジニに無茶なことを云う王だが、スジニは以前よりも理解して頷いていた。

 

「はい王様」

 

王の為にも、ゴリョンの為にも――そして今居るこのお腹の子供のために...

気付けばいつもお腹に手を当てることが癖になりつつある。

大事な大事な王様の子をここに宿している。

そのことが素直にうれしいと思える。

だから、誠心誠意自分のこともお腹の子のことも考え手を尽くしてくれた先生に感謝の気持ちがわく。

 

「ありがとう先生」

 

スジニの素直な感謝の言葉に、ウンスはハハっと破顔し。

 

「あら、うふふっわたしは医者だから当然のことをしたまでなんだけど、こうやってお礼を云われるのはやっぱり医者にとって凄く嬉しいことね」

 

照れて笑うウンスに本当に慕う気持ちは増すばかりだ。

その先生が照れた顔から、真摯な顔になりズイッと顔を近寄せられて。

 

「でも、これだけは約束してください。これからは自分の身体をなによりも大事にすること」

 

怪我をしないで済む方法をまず考えて行動して。

 

ウンスに願うように告げられたこと。

それはスジニを思っての言葉だった。

王以外にも自身が大切にされていることは分かっていたが、それがウンスと云うだけでなんだか心がほっこりと暖かくなる。

キハという姉とは家族としての時間を過ごせなかったスジニ。

その時間を、姉と云う残像を今居るこの人に重ね目頭が一瞬熱くなる。

スジニは慌てて自分の目元をゴシゴシと手の甲で擦った。

――子を宿すと涙もろくなるのか?

子は育てたが産んだことはない。

 

スジニは我がの境遇に思いを馳せる時、今は幸せな顔をしていた。

 

タムドクの前にいるのは王の覚えめでたい弓隊長であり、愛してやまぬ我が妃。

今目の前のそのおなごの貌はいつもより幼くあどけなくあり、それは滅多に見せない貌のスジニ。

ウンスと云う信頼できる存在を前にして浮かんだ表情なのだろう。

愛しき者の安堵した表情をタムドクはしかと見つめ、いつもは厳しく光る眼差しは穏やかで口もとは優しく緩めて見つめていた。

 

 

 


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