自分が小さい頃にサイコホラーだとかサイコスリラーといったジャンルが流行していたけれども、まだその頃はテレビの規制がゆるくておぼろ気ながらテレビ洋画劇場や日本のドラマでもそういったものを扱ったものが放送されているの観た記憶がある。
 ただそういったものを扱ったものはやたらと専門用語がでて難しかったり何よりもエログロだとか生々しい残酷という印象が強くて、あまり縁がないジャンルだった。自分はいわゆるスプラッタ映画だとかは観るけれども、リアルで生々しいのは苦手で現実感のない首がパンチで吹っ飛んだりといかにも特撮や作り物とわかるものが好きで、そういったあたりでも何となく苦手に感じるジャンルだった…
 だからそういったあたりで、そのジャンルでも有名であるハンニバル・レクターシリーズは未だに映画を観ていない…
 そんな自分が「羊たちの沈黙」を読んだのは新訳というタイミングからだった。

 さて最初に書いたようにサイコものは専門用語だとか難解でちょっとそういった部分で退屈に感じるイメージや何よりも生々しい残酷といった印象があり、羊たちの沈黙の犯人も紹介を読むだけでも残虐に感じて原作を読む前から身構えていたのだけれども…実際に読んでみると意外とそういったあたりがあっさりしていて逆に驚いた記憶がある。

 専門用語という部分では難しく感じて、だいぶ前に読んだというのもありほとんど記憶に残っていない…ただそれでも今回取り上げたのはレクター博士と主人公となるクラリスの交流が心に残っているからである。
  本作を読むかぎり、レクター博士とクラリスの関係性は不思議な関係…微妙に恋愛ともとれたり、あくまでも純粋な師と教え子ともみえるもので、レクター博士も紳士的で両者は一定の距離を保っていてそれが読んでいて自分が好きだなと思った部分だったりする。冗談交じりにレクター博士が「恋愛関係と思われるぞ」的なことをいう場面があったけれども、近すぎず遠すぎずその微妙な関係性のまま物語は幕を閉じてそういったあたりで、二人が再開する続編が気になったけれども…色々と読むと続編ではその距離感が近くなりすぎたり(ジョディ・フォスターさんは元々続編にも出演に意欲的だったのが続編を読んで失望しただとか)何よりも続編映画で本編からカットされた変態的な場面に関する話題を読んで、何となくその微妙な関係性が崩れているようでそういったあたりで未だに読んでいなかった。ただ映画の方は結末が変更されているそうで、そのあたりを何かで読んだときそちらがまだ関係性を保っているように思ってしまった…

 主人公のクラリスはレクター博士との交流で少しずつ成長して最後の対決に向かうのだけど、その流れが丁寧に描かれていてそいった部分でも面白さを感じた。犯人を追いかけるサスペンスとともに、クラリスの主人公はどうなるのというハラハラもあって何となくこれまでイメージしていたサイコものと違っていた。
 このあたり新訳で読みやすくなった部分なのか旧訳を読んでいないのでわからないけれども、さくさくと読み進めてあっという間に結末にたどり着いて映画だとかも気になってしまったけれど、ちょっと機会がない。続編の方は前述した理由からあまり読む意欲がないけれど、前作の「レッド・ドラゴン」の方は気になっている…

 最後に最近は復刊や新版で一冊だったのか分割されることがあるけれど、本書も元々は一冊だったのが新訳では上下にわけられて色々と商業上あるとは思うけれどもモヤモヤしてしまった…あと表紙も意識してはいるようだけど変更されているのが残念だった。あの映画のポスターのデザインが妙に印象的だったから…