SNS、ブログに同時掲載
二次創作のため小説家になろうには未掲載
アガサ・クリスティー没後50周年贋作
「素晴らしき未来の殺人」
未だに魅力的な作品を作り上げたことに感謝を捧ぐ
エルキュール・ポアロは満足気にスマートフォンを下ろした。
アプリを使って壁に掛けられた時計や書状、絵画などすべて水平、同じ幅になるように調整をしていてついに満足する形になったのだ。ポアロも人間である以上、完全なものではなく誤差があるのは理解をしていたがそれでも完璧といってもいい出来に妥協していた。
壁にかけられた時計は外観は昔ながらの立派な古風なものであったが、その中身は最新の電波時計で最新科学によって一秒の遅れもなく時間を刻んでいた。
科学の発展によって完璧に近いものが出来たかと思えば、また新たに気になることが出来て完璧にはまだ辿り着けそうになかった。
ふとポアロは今は退職したミス・レモンを思い出した。それまでは新しい書類整理法を考案してそれに自分の名前をつけることを目標としていたが、今や自動的に文章や資料は整理・分類されて一時期は自分は不必要なのではないかと思っていたが、機械とはいえそこにある不備や改善点を見つけるとまだまだ出来ることはあると、今や最新の技術を取り入れたうえでの新しい書類分類法の考案に熱中していた。
科学の発展は素晴らしいが、人間の欲望は留まることを知らないな、とポアロは思ったがそれでこそ人間だとも思った。
そして同時に、事件も変わらず起こっていた。
依頼人は若い女性であった。
彼女は青い顔でうつむいていた。
ポアロはにこやかに言った。
「マドモワゼル、あなたの依頼は事件の解決でしたね。ポアロは今回もまたそれをやり遂げましたよ」
「本当に?」
「えぇ、ポアロは嘘をつきません。たとえそれがあなたの意に沿わないものでもね」
その声はどこか冷ややかなものであった。
「あなたの依頼は女友達のケイトさんの有罪を証明することでしたね」
「友達でも何でもないですわ、彼女は。わたしの一番の友人のダルシーを殺したのですから」
「そうですか、それは失礼。わたしはてっきり親しい友人だと思いましてね」
依頼人の表情に浮かんだのは無であった。
「わたしは古臭い考えの持ち主ですが、若い人の考えは尊重しますよ。それこそ時代は移り変わるものです。わたしは過去に取り残されたとしても、若い人たちは未来に進むべきです…ただしだからといってわたしは罪を認めることはありませんがね」
「罪?罪とは何ですか?」
「はっきり言いましょう。あなたはダルシーさんを殺した。その結果、濡れ衣を着せられたケイトは自ら命を絶った。そしてそれはあなたには予想外のことだった…あなたの本当の目的は愛する人を奪おうとする人間を葬り去ることだった。そのためにあなたはダルシーに関して偽りの噂を流した。それだけでも許しがたいことです。そのうえあなたは自ら愛する人を死に追いやっただけでなく、罪から逃れようとしてその愛する人を殺人者に仕立て上げようとした。あなたは何重にも罪を犯しています、そこから逃れると思いますか?」
「だとしたら自分はどうすればいいのですか?」
「自白すべきでしょうね…起こしたことは二度と戻りません。わたしとしては睡眠薬の飲み過ぎや、事故があるのを願いますね。もちろん彼女の無罪を証明したうえでね」
そしてポアロは呟いた。
「たとえ科学が発展しようと素晴らしき未来にも、事件は起こるものですね」
ふとポアロが気づくとそこはいつもの自分の書斎であった。
壁には昔ながらの旧式の時計が掛かり、壁に並べられた書状や絵画など人間に出来る限界の均等さであった。
時計をみると数分ほど夢をみていたようであった。
あれらの道具はすべて夢想だったのかとポアロはがっかりしたが、不思議と現実感があるように思われた。なぜそんな夢をみたのかと思ったが、すぐに思い当たった。
帰宅する前にレストランで久しぶりに友人のサタースウェイトと会い、一緒に食事をしていたときの会話であった。
そのときにサタースウェイトが話題にしたのは、未だ見ぬ友人のハーリ・クィンのことであった。その内容は未来に関する科学の予想や人間の心理は奥底で繋がっているという説など多彩なものであった。
「科学が発展した未来で、人間は平和といったものを得ることができるでしょうか」
サタースウェイトの問いにポアロは悲しげに言った。
「思いませんね、人間である以上感情からは逃れません…未来でも出来ることはその犯罪を阻止することだけでしょうね」
そういった会話を思い出していた。
もしかしてあの夢は未来の人間と、心理で繋がっていたのではないか、未来でもまだ事件が起こっていない時点で、彼女にその顛末を見せていたのではないかと…
しかしポアロは首を振った。
それは有り得そうにないことだと。
ただ、もしも未来に起こる出来事を阻止できたとしたら…
けれどもそれは過去に生きるポアロにはわかることではなかった。
ポアロが夢の中でみたカレンダーは2026年1月12日を示していたが、それが何を意味するのか、わかるはずはなかった。