【あらすじ】
調査会社で課長として働く靖男は、結婚して十二年になる妻の国子から、妊娠の報告を受ける。
それを受けた靖男は、床に尻もちをつき、後頭部をテーブルに強く打ち付けるほど驚いた。
なぜならこの三年ほど、セックスはおろか、妻の身体に触れることさえしていなかったからだ。
真面目で気が弱く、不貞を働くなんぞ予想もできなかった国子は、一体どこで誰の子を身籠ってきたのだろう。
靖男は自身の面子を保つため、その子を自分の子供として育てると宣言するが、釈然としない気持ちをぬぐい去れないでいる。
そんなある日、同期だがまだ係長止まりの冴えない男、兎島を、なんとなく飲みに誘う。
兎島が行きつけだというバーに連れて行かれると、そこはプロレスジムを利用した不思議な店だった。
【感想】
2007年の靖男の章と、2039年のプロレスラーの章が交互に描かれる構成となっているこの作品。
どうなっていくんやろ。というワクワク感を抱きながら読み進めることができます。
父親のわからない子を身篭った妻、という少しナーバスなストーリーの中に、プロレスバーという特異な空間が出現し、掴みどころのない冴えない同僚、大男と小男の2人の無口な店員、恋愛話ばかりしている常連のお婆さんたち、が奇妙な世界観を醸し出している。
靖男と国子はものすごく人間臭いのに、脇を固める登場人物たちがファンタジックなんですよね。
そのアンバランスなハーモニーがいい。
そしてプロレスというひとつの共通項で未来の物語と繋がっていく。
今まで読んだ西加奈子さんの作品とは一味違った、少し不思議な物語でした。