下り坂になる前の晴天の日。もうすぐ桜も咲きそうで、さて、どうしようかな、と思っている様子。

火曜日は雨が多いけれど、今日は久しぶりに晴れた。

 

今日は普通にやっていこうねと今日のワークショップのファシリテーターのはるかさんと話していた。

 

ただ、ちょっと違うのは、明日がトミーさんと加賀さんの誕生日ということ。そして、先週の火曜日に小宮さんが旅立ったということ。カドベヤに入るときに、どんな気持ちで入ったらいいのかわからなくって、戸惑っている自分がいる。

 

はるかさんとゆーすけさんがもういらしていて、ワークショップの用意をしているし、加賀さんと長澤さんはご飯の準備をしているし、いつもの光景なんだけれど、ああ、カドベヤだというちょっと不思議な気持ちになる。庭田さんも仕事の後にいらして、みんながそれぞれのやることをこの中で見つけて動いている。

 

順子さんがいらしてくれて、ものすごく大きなマグロのテール部分とカマを大きな保冷箱に入れて持ってきてくれた。

 

 

 

 

6時にはお米も宅配で届いた。姫が「来たよ~」と言って入ってくると、小宮さんの写真を鏡にペタペタ貼ってくれる。黙ってもちゃんと場所が立ち上がっていくのは不思議で、それでもいつでもこんな感じなんだよね、と思いつつ、そのことに気がつかなかった自分に驚いている。

 

 

いるのにいないような、取り残されたような気持。それもまた悪くない。今、小宮さんはこんな気持ちなんだろうか。ずっとずっと咲き続けてくれていたガーベラがとうとうしぼんだ。一つひとつ目に入るものを確認していく。

 

 

ときどき、思い立ったように、加賀さんの手伝いをしたりして、一本の大根があっという間にきれいなわっかになっていく様子を見ている。生きていたものが、今度は私たちの命の一部になっていく。

 

 

 

前もそうだったけれど、こういう時の私は、とにかくぼんやりしてしまって、いつものことだけれど、何を話しかけられても馬耳東風になってしまう。小宮さんを亡くして1週間。この場で沸き起こっているいろいろな空気の中にいい感じで置き去りにされている。皆が小宮さんをどうやって送ろうか、と真剣に話してくれているのに、私は上の空だ。私の中ではまだまだ「送る」ことができない。さよならも言っていない。どこにさよならを言ったらいいのかもわからない。

 

(長澤さんはさっそく小宮ダンスを考えてくれました)

 

これは悲しいとか言うのとは違う。わからないことをわからないなりに淡々とこの時間を受け止めているだけだ。家族でないというだけで何も教えてくれない行政に対する怒りはある。やるせなさもある。そしてまた怒りがこみ上げる。でもここに来ると、ただ、「いない」という現実がある。1週間ぶりのカドベヤの空間にふんわり浮いている感じ。

 

今日はこんなふわふわした気持ちにぴったりのワークショップをはるかさんが展開してくれた。今日の気持ちをゴッホのひまわりの絵の中のひまわりにたとえてみようというアイスブレイクから始まった。私はちょっとうしろからこちらを見ているひまわりの気持ち。こっちを見ているけれど、横目で向こうも見ている。ゴッホのひまわりの絵はいくつもあるけれど、よく見るとどの絵の中のどのひまわりも一緒ではない。皆が個性を発揮している。私の気持ちははるかさんの気持ちと一緒だった。

 

 

(まずは、今日のおしゃべり鑑賞会の手順を説明。皆が思ったことを語り合う。皆でしっかり聞く。なるほど!と納得する。そこからまた語りあう。)

 

続いて今日の一枚は、散乱する髪の毛の中で黄色い椅子に座る人物の像。自画像なのだが、短い頭髪に手にははさみ。もう一方の手にはやはり切り立てなのか髪の房が握られている。いろいろな意見が飛び交った。この絵がフリーダ・カーロの作品と知っている人も知らない人も、一回自分の知っていることをわきに置いてとにかく絵と向き合ってみる。

 

 

この人物は男?女?来ているものは男の服だけれど、靴はハイヒール。

これは部屋の中?野外?

この人物は今どんな気持ち?

この椅子は何だか複雑な建築構造のよう

切られた髪はそのまま時間を表しているのじゃないかな。最初は手前の三つ編み。一番重みがありそう。その後は風に流されていった髪の毛?

 

ひとしきり話し合った後は、この絵がフリーダ・カーロの自画像と知っている人たちから、これがいつ頃書かれたものか、とかこの絵の構造のすばらしさについてあらためて会話が交わされた。誰もこの絵の真意はわからない。わからないなりにああでもない、こうでもないと話しながら、受け止めていく時間。

結局1時間ではとても終わらずみんなで8時半まで話し合っていました。「もう時間だよ」という小宮さんがいない、ということに気がついてあとではるかさんともにっこりしてしまう。

 

でもそれでちょうどよかったのは、台所では加賀シェフを中心にマグロと大格闘していたから。大きな車輪のようなテール部分はしっかり煮込みます。取り出して、加賀さんがケーキのように切り分けてくれました。

 

カマは塩と胡椒で軽く味付けしてしっかり焼く!

 

 

お誕生日なのに大活躍の加賀シェフ。庭田シェフも美帆シェフもみんなでスーシェフを務めます。

 

お魚だけでも大変だけれど、今日はだいこんのステーキとたっぷりの野菜炒め、ヤマトイモのすりおろしまで!

 

 

海苔とお豆腐のお味噌汁。

 

しかもこれは何???

 

 

なんと加賀シェフお手製のジンジャーエールです。炭酸水で割って飲みます。こってりしたお魚にさっぱりのジンジャーエール。何とも言えない素敵な組み合わせです。

 

 

 

小宮さんと一緒に食べます。

 

 

マグロのテールもカマもとろけるようなおいしさです。

 

今日は加賀さんとトミーさんのためにケーキを買っていこうと思っていたら、仕事が遅れて、大好きなお店のシフォンケーキは全部売り切れていた。代わりに目についたのが、小宮さんの笑顔を想わせる「生ドーナツ」。真ん中からにんまりとクリームがのぞいている。小宮さんの笑顔みたいでしょ。今日もたくさんの人が来てくれたので、半分に切りました。

 

 

まわりに順子さんが持ってきてくださったクッキーをあしらうと、なかなかの素敵なお誕生日プレートになった。

 

トミーさんと加賀さんのためには四角いホイップアンパンを用意しました。

願い事をして、思いっきり吹き消す!今年も素敵な1年となりますように。

今日はゆっくり過ごしたカドベヤの時間でした。

 

ガーベラはどうしようかな、と思いながら、結局持って帰った。空いた海苔の缶の中に小さなガーベラがちょこんと収まる。

外に出ると、空気が湿っている。帰りがけに長澤さんが小宮さんの住んでいたアパートに連れて行ってくれた。

 

横浜方面の電車を待っている時に、ずっと黙っていた庭田さんが一言いった。

 

小宮さんがここまで沢山の方に支えられ、想われ、祈られる中で亡くなられたのは本当に幸せなことだったのではないかって思うんです。

 

私はこの言葉に今日救われた気がしました。

送り方ではない、送られるのでもない、最後の時を迎える人の気持ちになって今一度考えること。そして、私たちも小宮さんと一緒にいて幸せだったということ。

 

明日からまた雨だそうだ。